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涼宮ハルヒのOCGⅠ いつもの通り、SOS団は平凡な日常を送っていた。ハルヒはパソコンの前でマウスをせわしなく動かしながら何事かやっていて、長門は黙々と読書、朝比奈さんは最近買ってきた茶の葉についての本を読んでいる。というか朝比奈さん、そんなに一生懸命お茶について勉強しなくてもいいですよ。 ちなみに俺と古泉はいつもの通りゲーム・・・といっても最近はカードゲームだ。小学生の時に流行った○戯王ってやつでな、オセロやチェスにもいい加減飽きたのでここ2週間ぐらいはこれをやってるというわけだ。 「では、手札から緊急テレポートを発動します。デッキからクレボンスを特殊召喚して、フィールドの星3モンスターとシンクロ、マジカルアンドロイドを特殊召喚します。」 おっと、そうはさせるか。特殊召喚時に奈落の落とし穴を発動するぞ。何かチェーンはあるか、古泉。 「残念ながらありません。カードを一枚伏せてターンエンドです。」 そうか、なら俺のターンだな。えー墓地には風属性が2体、闇が3体・・・と、いけるな。墓地の風闇を除外して手札からダーク・シムルグを特殊召喚、んで手札からハーピィクイーンを通常召喚、魔法カード死者蘇生を発動、対象は古泉の墓地のクレボンス。6シンクロで召喚するのは・・・氷結界の龍、ブリューナク。手札を一枚コストにしてその伏せカードをバウンスだ。チェーンするか? 「いえ、残念ながらできませんね」 ならバトルフェイズ、ブリューナクとダルシムで攻撃だ、全部通れば俺の勝ちだが、どうだ? 「僕の負けです。いやはやあなたは強いですね。これで7連敗です。」 いやどうみてもお前が弱すぎるんだろ、古泉。というか構築が悪い。いくら自分が超能力者だからってサイキック族ばっかいれればいいってものでもないぞ。パイプ椅子によりかかりながら大きく伸びをしたとき、ふいに長門と目があった。読書は終わったのだろうか。珍しいこともあるものだ。どうした?長門。 「どういったゲームをしているのか気になった」 長門が気になるなんて珍しいな。コンピューター研との勝負の時もそんな雰囲気をまとってたっけか。ルール教えてやるからやってみるか? 「そうする」 長門に説明している(といっても30秒ほどだが)と、いきなりハルヒが声をかけてきた。どうやらこいつにも長門が何かに興味を持つことは珍しいと感じたらしい。 「有希が興味持つなんて珍しいわねえ・・・。ねえキョン、古泉君。あたしにもルール教えなさいよ」 今俺は長門に教えてるんだ。古泉、任せるぞ。 「承知しました。では涼宮さん、ご説明しましょう。まずこの山札をデッキといいまして・・・・」 まあハルヒも行動は常軌を逸しているが勉強はできるし頭もいい、10分ほどで大体把握したようだ。長門?俺が説明して1分ほどで終わったよ。俺がわざわざ説明する必要あったのかね。 ハルヒと長門がデュエルをしてる様子を(デッキは俺と古泉のを貸してやった)朝比奈さんのお茶を飲みながら眺めていた俺と古泉だったが、どうやら長門だけでなくハルヒも○戯王にはハマったらしい。結局今日は朝比奈さんに時間を言われるまで誰も帰ろうとしなかったな。 「あ~あ、もっといろんなカードないのかしら?古泉君、○ナミの知り合いっていたりしない?」 学校からの帰り道、ハルヒが不満そうな顔をしながら言った。ちなみに今日古泉の(構築目的不明の)デッキを使っていたのはハルヒだ。 「残念ながらすぐには思い当たりませんね。今日帰宅したら調べてみます」 さすがに機関といえどもカードゲーム会社の伝手はなかったようだ。まあそりゃそうだわな、高校生にもなった俺たちが今更カードゲームをやるなんて誰も思わんだろう。 「あたしも今日帰って少し調べてみようかしら」 しかし本当に珍しいな、ハルヒが突発的に何かに興味を持つのは珍しいことではないが、大抵は一日かそこらで終わるものだ。この調子だと明日も放課後はデュエルになるかもな。 翌日、掃除当番+岡部の呼び出しでかなり遅めに部室に行った俺は驚愕した。部屋の片隅には山のようにダンボールが積み上げられ、机の上には大量のカード、そして奥ではハルヒと長門がせわしなくデュエルを続けている。 「いくわよ有希!剣闘獣ラクエルとベストロウリィをデッキに戻して、剣闘獣ガイザレスを特殊召喚! フィールド上のライラとガロスを破壊するわ!何かチェーンある?」 「ない」 「じゃあガイザレスでダイレクトアタック!」 おいおいなんだこの異様な光景は。朝比奈さん、いったい何がどうなったんですか? 「えーっと、昨日古泉君の機関に、カードを大量に売りたいって人から電話があったらしくて・・・」 それでここにあるのは全部そのカード、というわけですか。まあ新品じゃないから傷ありのものが多いがそれでも一枚数千円するような代物もある。 「長門さんが情報操作で作ったカードも半分くらいはいってるみたいです」 長門、それはどう考えても情報操作の無駄使いだぞ。 「私のターン、メインフェイズに手札から大寒波を発動。チェーンは?」 「ないわ」 「そう。墓地のライトロードはライラ・ライコウ・ルミナス・ガロスの4種類、手札より裁きの龍を特殊召喚。効果発動、1000ポイントのライフを払い、このカードを除く全てのカードを破壊する。」 ハルヒも長門も昨日ルールを覚えたやつとはとても思えないほど、デッキ構築もプレイングも向上している。いったいどうやったら一日でこんなに上手くなるんだ? 「二人とも、昨日は遅くまで調べてたらしいですよ」 朝比奈さんがお茶を淹れながら言った。やれやれ、そんなに面白かったのかね昨日のデュエルは。 「おっと、あなたもいらしていましたか。」 部室のドアをあけながら片手にダンボールを抱えた古泉が入ってきた。朝比奈さんから聞いた話だが、あれは本当なのか? 「ええ、我々の方でも想定外でしてね。機関の方で把握できなかった動きとなると、やはり涼宮さんの能力、ということになるんでしょうね。」 なにがやはり涼宮さんの能力、だ。というか機関はこんなにカードを買って財政的に大丈夫なのか。 「去年の孤島での費用の二十分の一です。安いものですよ」 古泉はニヤニヤしながら言った。ダンボールの中身はデッキケースとデュエルフィールドだったらしい。 「どうです?あなたもデッキ構築しますか?」 ああ。悪いがやらせてもらうぜ。ハルヒの能力が俺にプラスに作用することなんて滅多になさそうなんでな。 「あ、キョン君。デッキ組んだら私とやりましょうね?」 え、朝比奈さん。未来でもこんなことやってるんですか?というかデュエルできるんですか? 「この時間軸の何倍も流行ってますよ。それ以上は・・・禁則事項です」 朝比奈さんの言うとおり未来でも○戯王が流行ってるとしたらどんな風にやってるんだろうか。まさかバイクに乗って・・・・そんなわけないか。 「死者転生を発動。手札を一枚捨てて墓地から裁きの龍を回収。召喚条件を満たしているので特殊召喚。起動効果、コストを払って全体除去を・・・」 「甘いわ有希!効果発動したときに罠発動!剣闘獣の戦車」 「・・うかつ」 ハルヒと長門は相変わらず白熱している。まあ、たまにはこういうのも悪くないかもな。よし、朝比奈さんやりましょうか 「はあい。」 END
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俺は今奇妙な状況下に置かれている。 …というのもあの凉宮ハルヒに抱きつかれているというのだから戸惑いを隠せない。 普段のハルヒがこんなことをしないのは皆さんご存じだろう。 まぁ、とある事情があって普段のハルヒではなくなっているからこうなっているわけだ… そのとある事情を説明するためには少々過去に遡らねばならん(←こんな字書くんだな) いつもの通り俺たちSOS団は文芸部の部室にいた。 まぁ、いつもと一つ違うと言えばこの砂漠のような部屋に俺の心のオアシス… そう、朝比奈さんがいないことぐらいだ。 さっき廊下でたまたま会った鶴屋さんの話によると夏風邪らしい。 やはり日頃の疲れが貯まっていたのだろう そこの団長の特等席でふん反り返ってる涼宮ハルヒのせいで… と、俺が色々と考えながらハルヒを見ていると 視線を感じたらしいハルヒがこっちを睨んで言った 「なに!?暑いんだから視線を向けないでよ!」 「……」 いつもだったら何か捻った言葉の一つでも返すのだが、暑すぎて何も返せなかった。 続けてハルヒが言う。 「まったく、ボーっとしてるんならクーラーかみくるちゃんを持ってきなさいよ」 こんなに暑いのに口の減らん奴である。しかもまた無茶なことを… 「無理に決まってるだろ。朝比奈さんは病気だし、クーラーを買う金もない。」 俺は必要最低限の返答をした。 その返答に対してハルヒは「知ってるわよ!バカキョン!」 逆ギレかよ…。そうとう不機嫌だな今日は。 しばらく沈黙が続いて部屋には長門が本をめくる音だけが響いた。 バンッ!! 突然ハルヒが机を叩き立ち上がった。 俺と古泉はぼんやりとしていた脳への突然の刺激に驚いてハルヒの方を向いた。長門は……まぁ、そんなことぐらいでは反応しなかったな。 「お酒を飲みましょう!!」 「………ハァ?」 感情が素直に言葉として表れた。わりと考えてからものを言うタイプなんだがな。 「暑い日はビールに限るってうちの親父が言ってたのよ!」 そんなに目を輝かせるな。 「なに言ってんだ。未成年だろ俺たち。しかもここは学校だ」 もっともである。これに異議を唱える奴(不良以外でな)がいたら俺の前に出てこ… 「はあ!?なに堅いこといってんのよ!せっかく高校生になったんだからバレなきゃいいのよ!」 …いたよ。それも目の前に。 「しかもここで飲むなんて、そこまであたしはバカじゃないの」 さすがにそこはわかってるらしい。 「ああそうかい。じゃあ早く家に帰って一人で…」 「は?何言ってんの?」 人が話してんのにこの女は…。 人の話は最後まで聞くって教わらなかったのか? アメリカの映画の口論みたいな奴だ。 と不満を脳内でぶちまけていたのだが 俺はまたハルヒのイカレタ発言を耳にすることになる。 「キョンの家でみんなで宴会に決まってるじゃない」…皆さん、今この人はあたりまえみたいに言いましたけど決まってはいないですよね? 俺の脳内のたくさんの俺による俺会議の結果、満場一致で反論することが決まった。 「なに勝手に決めてんだ。いい加減にしろ。だいたい…」 俺がいいかけると読書中の長門が呟いた 「…………閉鎖空間」 おいおい嘘だろ?こんなことぐらいで・・・ そう思い古泉を見ると、腹が立つくらいの笑顔で頷きやがった ムッとした例のアヒルみたいな口でハルヒが言った。 「だいたいなによ」 お前はいつもいつも…と言おうとしていたのだが、あの言葉を突き付けられてしまっては…… 「だ、だいたい俺の親が許可するかどうかわからないしだな」 …あれ? うわぁ~ミスったよ!親さえ良ければ家でいいみたいじゃねえか! 「なるほど、それは考えてなかったわ。じゃあ今聞いてみなさい」 やっぱりね。うん。わかってたぞ。なんだかんだでハルヒとの付き合いも長いしな。 言ってしまったものは仕方ない。 俺は携帯から自宅に電話した。 しばらくかけていると母親が出た。 どうしたの?とか聞かれたが手短に済ませたかった俺は本題に入った。 「あのさ、家で酒とか飲んだらダメだよな?」 頼む!ダメだと言ってくれ!親がダメと言ったならハルヒも諦めるだろ。 そのためにわざわざ否定疑問文で訊いたんだ。 「いいんじゃない?もう高校生なんだし。外で飲んで警察のお世話になるよりいいわよ」 …そうだった。俺の親は割りとさばけた人間なんだった。 俺は電話を切った。 「いいお母さんね。キョンと違って話の分かる人よ」 うれしそうにしやがって。つーか笑顔は本当にかわいい奴だ。 ワガママにもいい加減慣れてきている自分が少し嫌だ。 そんな感じで俺らSOS団は雑用係である俺(言ってて悲しくなってくる)の家で 宴会を開くことになった。 待て待て、まだ俺の話は終わりじゃないんだ。 少し愚痴らせてくれ 家に向かう途中で酒を買えれば良かったのだが、もちろん制服姿の奴に売ってくれる店はない。 つまり俺はハルヒ達を一度家に案内して着替えてから買いに行かねばならんのだった。 もちろん私服がないという理由で俺ひとりで買いにいったさ。 まあ、奢りじゃないだけマシか…。 「じゃあ行ってくるけど、部屋荒らすなよ?特にハルヒ!」 そう言い残して俺は家を出た。 冒頭で言ったように外は暑い。いち早くクーラーの効いた部屋に帰還するため俺は急ぎめで買い物を済ませ家に向かった。 ちなみに店員はあきらかに二十歳に達していない女子高生だった。 はたして俺はいくつに見られたのだろう? など考えながら家に着いた。部屋のドアを開けるとクーラーが効いていて、まるで天国のようだった。 「買ってきたぞ」 俺は溜め息混じりで言った。 「お疲れ様です」 と古泉が言ったので、「ああ疲れたよ。畜生!」と心の中で思ってると 「………お疲れさま」 と長門が蚊のなくような声で言ったのを俺はしっかりと耳にした。 普段無口な長門に感謝されると行った甲斐があるというものだ。 と少し感動していると 「10分ちょっとね。まぁ、キョンにしてはなかなかのタイムね。お疲れ様」 ハルヒの言葉に俺はややムッとしたが気にしていてはきりがない。 「部屋荒らしてないだろうな?ハルヒ? 俺は先ほどの怒りの分も込めて言ってやると、 「あ、荒らしてなんかないわよ!」 ハルヒが心外だという顔で言った。 実に怪しいものだが、ちょっと荒らしたぐらいじゃ見られて困るようなものは見付からないだろうしな。 「そうか」 とだけ言って床に座った。 その後、機嫌が少し悪そうなハルヒをフォローするため古泉が 「乾杯の合図は団長が」 など言いながらハルヒに缶チューハイを渡し、 古泉の気遣いに気を良くしたハルヒのやたらテンションの高い乾杯で、ハルヒ曰く「第一回SOS団夏休み直前祝いの宴会」が始まった。 いや、始まってしまったの方がしっくりくるな。 そこからが大変だったのだ。 俺とハルヒは父親がかなり飲むらしく、全然酔わなかった。 古泉はあまり飲まないし、少し顔が赤くなる程度でいつもと変わらずだった 意外だったのは長門だ。俺の個人的主観では長門はこの中で一番酒に強い! ということになっていたのだが、それは大きな検討違いだったらしく、 一口、二口飲むと、まるで人形のように倒れ込み、そのまま眠ってしまった。 それを見たハルヒが 「有希ったらだらしないのね~」なんて楽しそうに言っていた。 どうせ酔うなら、ベラベラとハルヒぐらい喋る長門や、笑い続ける長門も見たかったが おそらく収拾に困っただろう。 それにしてもハルヒは飲む。気付けばハルヒの横には空の缶が4本も並んでいる。 心配になり 「飲みすぎじゃないのか?」 と声をかけたが、 「こんなのジュースと同じよ!!」 と言われてしまった。 本人が一番自分を分かっているだろう。 俺はハルヒのことはあまり気にかけず、テレビを見た。 長門は息をしてるか不安になるくらい寝ていて、俺と古泉はあまり飲まずにテレビをみて、ハルヒは飲みながらテレビを見ていた。 興味深い番組に夢中になっていたため気付かなかったが、 時計はまもなく10時30分を指そうとしていた… ふとハルヒの方を見ると、そこには目の座った完全な酔っぱらいがいた… 俺は知っていた。酔っぱらいとは目を合わせてはならないということを、しかし、酔っぱらいと知らずに見た奴が酔っぱらいだった場合の対処方は知らない。 そう、まさに今だ… 「なあに見てんのよキョン~」 うわっ!絡まれた! 俺は酔っぱらいがどれほど厄介なものかは分かってるつもりだ。 現にうちの母親はすぐ酔うし絡むからな。 のそのそと近付いて来たハルヒは俺に抱きつくとそのまま押し倒した・・・ 「どけ、ハルヒ!重いから!」 勘違いするなよ?ハルヒの名誉のために言うが別に本当に重いわけではない。 俺は酔っぱらい(主に母親)に乗しかかられた時はいつもこう言うのだ。いわば決め台詞だな。 しかしハルヒは一行に退こうとしない。 「ん~キョン~」などと普段出さないような声で顔を俺の胸あたりに擦りつけて来る。 そんな攻防がしばらく続くと長門が目を覚ましあたりをみて開口一番にこう言った 「………帰る」 俺は喜び、叫んだ。「早くこのよっぱらいを連れて帰ってくれ!」 もちろん心の中でだぞ? しかし次の言葉で固まった。 「では帰りましょうか、長門さん?」 長門はコクッと微かに首を縦に振った。 えっ!ちょっと待てよ。涼宮さんはいいのか!? 「おい、古泉!こいつはどうするんだ!?」 俺は今まさに部屋から出ようとする古泉に訪ねた。 「ん~」 なに考えてんだ?「ん~」じゃないだろ!? 「お任せします」 笑顔でいいやがった。 「ハァ?」 今日は素直に言葉が口から出る日だ。 「おじゃましました」 そういうと俺の心の底からの疑問には耳も貸さず古泉は部屋から出てった。 続いて長門が出て行こうとしたため 俺は最後のチャンスだと思い長門に言った。 「な、長門!こいつを連れて帰ってくれ!」 「……やだ」 「やだ」って長門さん… まだ少し酔ってんだな~とか考えているうちに長門は部屋から出て行った。 俺は戸惑った。時計を見るともう11時を過ぎている。 もちろんハルヒを一人で帰らせるなんてことはできないし、 送って行くにしろ、こんな泥酔状態の奴を連れて歩いてたら警察に捕まる。 俺が必死に考えているというのに当のハルヒは今だに俺の胸あたりに顔を擦りつけ、 甘ったるい声でゴニョゴニョ言っている。 なにを言ってるんだかわからないが、俺はハルヒの方を見ていた。 しばらくすると、突然ハルヒは顔を上げ、俺の方を見て言った。 「キョンはあたしのことどう思ってるの~?」 …その刹那、稲妻が体を突き抜けた。 というのは嘘だが、 元々美人なハルヒが上目使いで、頬を赤く染め、さらには「あたしのことどう思ってる?」 と来たからには衝撃を防ぎきることはできなかった。 「ど、どうって…」 俺が言葉に詰まっているとハルヒが俺の体を軽く揺すり 「ねぇ~どうなの~?」 とか言っている。 正直この状況に俺はまだ困惑しているため、 苦し紛れにハルヒに言った。 「お前は俺のことどう思ってるんだ?」 普段のハルヒの質問に質問で返したら逆鱗に触れることは必至だが、今ならいけそうだと判断したからだ。「え?あ、あたし?」 赤い顔を更に赤くさせ、ハルヒが言った。 「そうだ。ハルヒから教えて欲しいんだ」 確にハルヒが俺をどう思ってるのか気になるしな。 今なら本音が聞けそうだしな。 財布とかパシリでないことを祈ろう… しばらく沈黙が続いた(5秒ぐらいだがな)が、ハルヒが話出した。 「…あたしは……キョンが……好きだよ///」 「へ?」 我ながら気の抜けた声である。だが本気で俺は驚いたんだ。まさかあのハルヒから好きだと言われるとは思わなかったからな。 たぶん今鏡を見たらトマトより赤い俺に似た奴が写るだろう。 頭の中がパニックになっていたが、 どうやらハルヒの話にはまだ続きがあるらしかった。 「…いつもあたしの勝手なワガママ聞いてくれるのキョンだけだし。いざという時ほんとに頼りになるし、 いつもあたしのこと支えてくれてるもん…。キョンに会わなかったら高校だってきっと辞めてた…。」 いつになくシリアスなハルヒの話を俺は黙って聞いていた。 「それに比べてあたしは……グスッ」 ……泣いてる? 確かに泣いている。人前で涙を見せないハルヒが。 泣きながらハルヒは続けた。 「キョンの優しさに甘えてばっかりだし……、かわいくワガママも言えないし……、なにかしてくれても、 ありがとうも言えないの……。いっぱいいっぱい感謝してるのに、何度も何度も支えてもらったのに…」 俺は何も言えずにいた。 「…だからね……、キョンの気持ちが知りたいの…。 こんなあたしのこと良く思ってないのはわかってる。あたしがキョンだったら、とっくに見捨ててる……。」 「でも…あんたは見捨てないでいてくれた…。 あたしは……もうキョンじゃなきゃ駄目なのよ……。 迷惑なのは分かってる。でもキョンがいないとあたしきっと壊れちゃう…。 だからキョンの気持ち聞かせて…。お願い…。 みくるちゃんみたいになるから…。キョンの理想の女の子になる……。だから……!!」 気付けば俺はハルヒを抱き締めてた。 「キョ、キョン…?」 いつもと違う弱々しくて壊れそうなハルヒを抱き締めてた。 「…違うぞハルヒ。」 そう、違うんだよ。俺が好きなのは…… そういえば今日は素直に口から言葉が出る日だったな…。 「俺が好きなのは今のままの涼宮ハルヒだ…。ムチャクチャなことばっかり言ってて、 俺を振り回して…。素直じゃなくて、怒りっぽい…そんなお前が好きなんだ!」 「……うそ」 ハルヒは驚いた顔をして声を漏らした 「ウソじゃない。お前が好きなんだ。お前が好きだ。 …さっき素直じゃないってお前に言ったが、本当に素直じゃないのは俺の方なんだよ。 お前の正直な気持ちを知ってやっときづいたんだ。お前を愛してるってな…」 こんなに自分の気持ちを表に出したのは久しぶりだった。 「いなくなって壊れるのはきっと俺だって同じはずだ。 俺も中学の時はお前と同じように毎日に退屈してたんだと思う。 でも今は違う…。お前といるのが楽しくて仕方がないだよ!」 言いたいことは全部言ってやった。 「ほ、ほんとなの?」 ハルヒが目の周りを赤くして言った。 「あぁ本当だ!」 「う、うそだったら死刑よ!?」 「残念だが死刑にはなりそうにない。」 ハルヒは再び泣き出した。 「泣いてるのか?ハルヒ?」 からかうように言ってやった。 「泣いてるわよ!あんたがやさしすぎるから!」 「なんだそりゃ?」 二人の間に自然と笑みがこぼれる。 「……ねぇキョン」 笑いがおさまると同時にハルヒが言ってきた。 「なんだ?」 「一つワガママ言ってもいい?」 「おう、なんだ?俺のできる範囲でな?」 「キスして欲しい…」 ハルヒの顔は今日最大の赤さだった。 やばいやばいやばいかわいいぞ!? 俺は焦っていたが、ふとあることに気付きハルヒに質問を投げ掛けた。 「お前酔ってないのか?」本来酔っぱらいには「酔っているか?」という質問は禁止なのだが、 俺にはハルヒが今酔ってる様には見えなかったのだ。 ハルヒは急にそわそわしだし、息を飲んでから白状した。 「え~っとね、正直途中までは酔っててあんまり記憶にないんだけど、 途中からなんだか頭がスーっとしてって少し頭がグルグルするぐらいになったのよ」 「途中ってどのあたりだ?」 「よくわかんないだけど、気付いたらあんたに抱き締められてて、 あんたが「違う…」とか言ってたの…。 なにが違うんだろうとか思ったけどあんたの腕の中が気持ち良くて、ボーっとしてたらあんたが好きだって言ってくれて、 そこからはハッキリ覚えてるのよ///」 「つまりハルヒは自分の告白は覚えてなくて、俺の…こ、告白は覚えてるってことか?」 なんて都合のいい奴なんだろう… 俺がそう思っていると、 またまた顔を赤くしたハルヒが顔を押さえて言った。「え、じゃ、じゃあ夢かと思って言ってた告白は全部現実だったの!?」 「夢だと思ってたのか?」俺の言葉により、自分が確かに俺に告白したことを確認すると、ハルヒは俺の胸に顔をうずめて 「顔から血がでるほど恥ずかしい!」 などと叫んでいる。 あえて血ではなく火だろうという突っ込みはいれなかった。 ただ俺の腕の中で悶えるハルヒの頭を撫でながら言った。 「でもあれがハルヒの本音でいいんだよな?」 ハルヒは顔を上げずに、耳まで真っ赤にして、うんと一度だけ頷いた。 「うれしかったぞ」 と言い、ハルヒは恥ずかしいらしく少し嫌がったが、顔を上げさせ、 そっと口づけた。 二回目のキスは大人の味がした・・・ キスしたあと興奮して酔いが再び回ったのか、 ハルヒはパタリと倒れ込み寝てしまった。 俺は起こさないようにハルヒをベッドに運び、寝かせてやった。 あまりに寝顔がかわいいのでしばらく見ていると 「…キョン……すき…」 とハルヒが嬉しい寝言を言ってくれた。 俺は抱きつきたくなる衝動を押さえて、タンスに向かった。 え?なんでかって? こんなかわいい彼女がいるのに、あんな物持ってたらハルヒに怒られちまうからな。 この秘蔵のビデオや雑誌はエロ谷口にでも売ってやるつもりだ。 朝起きるとまだハルヒは寝ていた。 そんなに口開けて寝やがってだらしない奴だ。 でも裏を返せば信頼されてるってことなのだろうか? 「せっかくだから寝顔でも撮っておくか…」 と呟き、携帯を取り出すとハルヒが起きた。 少々残念だが仕方ない。 「よっ!元気か?」 と俺が挨拶すると、寝癖のついた髪に重そうな瞼であたりを見回し、 昨日のことを思いだし顔を赤くして言った 「へ、変なことしてないでしょうね!?」 一言めからいつも通りのハルヒがおかしくて俺は笑って言った。 「何かして欲しかったのか?」 「バ、バカキョン…///」 いつもと違うトーンで言われたため俺まで体が熱くなってくる。 「団長命令よ。水を持ってきなさい!」 ハルヒも熱いのだろう 「はいはい」 と水を取りに行こうと廊下に出ようとすると、 「そ、それから!」 ハルヒが叫んだ。 そんなに声を張らなくても聞こえるんだがな。 「ん?なんだ?」 俺が聞くと 長門ばりの小さな声で 「もう一回キスして…」 と言ったのを俺は聞き逃さなかった…… 終わり
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涼宮ハルヒの逆転 太陽が元気に輝いてるにも関わらず、今日は気温が低い。そう冬だからである。 放課後相変わらず文芸部室で遊びもとい団活動している五人。 俺は古泉と朝比奈さんでじじ抜きをし、長門は本を読んでいる・・・あれは人体解剖の本か?でハルヒはネットで動画を見ているようで、さっきから高い女性ボイスがうるさい。 古泉がビリという当たり前と化した結果でじじ抜きを終了したとき、団長様が騒ぎはじめた。 ハルヒ「キョン!あんたこの女の子好きでしょ!」 ちょっと来なさい、とばかりに魔手を招いてきた。仕方なく立ち上がりハルヒの見ている動画を見に行った。 動画にはやけにうるさい女と涙目なか弱い男が映っていた。どうやら前者のことを言ってるようだ。 ハルヒ「主人公のことを思い心を鬼にする女の子。あんたにはこういう子のがお似合いよ!」 いーや朝比奈さんのような可憐な女子が好きだ。ておい古泉、なに笑ってんだ? キョン「俺は可愛くて大人しい同級生と付き合いたい」 みくる「ロマンティストですねぇキョンくん」 いやですね朝比奈さん?さりげなく「人に夢と書いて」ということを言わないでくださいよ。 朝比奈さんの嘲笑を一身に受けながらハルヒの方に目をやると ハルヒが俺を見たまま目を見開いて硬直していた。 キョン「ハルヒ?」 ハルヒ「・・・そうだったの」 なにゆえ落ち込む? そのとき本を閉じる音が聞こえた。 ハルヒ「まあいいわ。とりあえず解散!」 一気にテンション戻しやがった。 帰り道、鈍感ですねと古泉に言われた。俺がなにをした! これから起こる事件は俺が悪かったのだろう。だがなあ宇宙人に未来人に超能力者、俺にだって選ぶ権利があっても・・・まあ俺は自分の意志で決めたから良いのだが。 次の日いつもどおり妹にたたき起こされた。いつもどおりだらだらと飯を食べた。いつもどおり登校直前に教科書の類いをバックに積めた。 つまり俺は学生としてはダメ人間なわけだ。 そしていつもどおり玄関のドアを開けると、いつもどおりではない光景を見た。 なんとハルヒが俺の目の前にいる。 キョン「どうしたんだ?荷物持ちならお断りだぞ」 ハルヒ「えと・・・おはようございます」 俺にカミナリが走った。なんでハルヒが手もじもじさせて、一般人のセリフを言ってんだ!? ハルヒ「あっ荷物持ってもらえるのでしたらその・・」 微妙に図々しい所は変わらないな。だがこんな弱気な美少女の頼みとあれば キョン「わかった。カバンよこせ」 ハルヒ「あっありがとうございます」 顔赤くしないでくれ、理性がはじけ飛びそうだ。てか本当に同一人物なのか? カバンを受け取りつつ聞いてみた。 キョン「名前は?」 ハルヒ「えっ?涼宮ハルヒです。でも以前から知って」 キョン「部活は?」 ハルヒ「SOS団の団長ですけど?」 キョン「バスト・ヒップ・ウエストは?」 ハルヒ「えっとたしか・・てちょっとキョンくん!」 最後の解答以外で判断するとたしかにあの暴君らしい。あとで古泉に聞くか。 てなわけで俺とハルヒは登校した。 ハルヒと黙ったまま肩並べて歩くのは初めてだな。たまにハルヒが俺を見ては地面を見ていた。急に頭をなでてやりたくなったが、我慢して歩いた。 授業中ハルヒは寝ずに起きていて、6教科の教師全てを驚かせた。ハルヒが本当に優等生に見えたひと時である。 昼休み、俺はハルヒからの誘いで昼食を共にした。だが弁当をもらえるわけではなく、ただ机をくっつけて黙って各々の弁当を食べるだけだったが。たびたびハルヒがハンカチを取り出してこちらを見ては戻してたが、どうしたんだろうね。 放課後俺は急いで部室へ向かった。ハルヒは英語教師に質問してから行く、という。今日は英語の授業がなかったな。英語教師がハルヒの変わりぶりに驚愕することは間違いない。 この一連の変化を解決すべく部室の扉を開けると、いきなり誰かに抱きつかれた。確認すると、小柄な体の無口少女が 長門「キョンくん今日は早いね~!」 なにがあった? キョン「長門。これは一体全体どうなってんだ?」 長門「もうキョンくん!私のことは『ゆきっち』でいいよ!」 「消失」以来久しぶりに見た長門の笑顔に一瞬ときめいたが、長門を落ち着かせて事情を聞くことにした。 長門「ブーゆきっちでいいのに。なんか『ハルっち』が性格を改変したの」 キョン「おまえとハルヒをか?」 長門「私は変わってないよ~!ハルっちと『牛乳腹黒ロリ女』を変えたっぽい」 色んなところにツッコミしたいのだがまあいい。 長門「この改変について特に問題はないよ、て情報統合思念体が決定しちゃった。だからこのままキョンくんと遊ぶ~!」 こら抱きつくな、いやしてください、いーややっぱりだめだ! 「キョンから離れろ長門ーー!!!」 甘い誘惑に踊らされてる俺の背後から聞いた覚えのある声が叫んだ。振り向くとそこには・・朝比奈さん? 朝比奈「てめぇ二人っきりだからって何してもいいわけじゃなねぇぞ!」 長門「ふーんだ。陰険腹黒娘に言われたくないもんね~」 朝比奈「だから離れろって言ってんだろ長門!だいたいてめぇに陰険なんて言われたくねぇよ!」 俺は二人の口論に口を出せずただ呆然としていた。怒ってる朝比奈さんもかわいいです、てレベルじゃない。 長門「なんで私に美人局常習犯って言われたくないのよ?」 朝比奈「セリフ変わってんだろ!あんな本読んでるてめぇに言われたくはない!!」 そう言って指さした先を見てみると、椅子の上に一冊の本があった。なになにタイトルは「海外拷問画像集R20」?そんな本があったんだ。 驚いている俺の視界が急に暗くなった。 長門「見ちゃだめ!恥ずかしいよ~」 朝比奈「抱きつくな~!!!」 長門が俺の目を手で覆ったようだ。朝比奈さんが長門につかみかかったらしく、長門が俺から離れて朝比奈さんとケンカし始めた。 ハルヒ「どうしたんでしょう?」 いつのまにか俺のとなりでハルヒがあたふたしていた。本来の朝比奈さんポジションにハルヒが着くのか。 古泉「どうやら面白いことになってるそうですね」 おまえもいたのか。それより、女子のケンカを面白いとな? 古泉「たまには良いものです。今回の件は大きな改変ですが、あまり重要視する必要のない問題です」 むしろ楽しいです、と嫌みではなさそうな笑みを浮かべていた。 ハルヒ「あの二人を止めた方が」 古泉「涼宮さんがそういうのであれば止めましょう」 そう言うなり古泉が白兵戦中の朝比奈さんと長門の間に入った。 古泉「二人とも落ちつゲフグハァ!」 みくる「邪魔すんなガチホモ!」 長門「いっちゃんも敵なんだよね~」 あーあ左右から顔を殴られるなんてデフォなことして。 古泉は両頬を真っ赤に腫らして戻ってきた、なんか濡れ衣だとか言ってる。古泉の犠牲を無駄にせぬため、今度は俺が止めに入った。簡単に乱闘が終了した。 古泉「さて今回の件についてですが、先程言ったとおり重大な問題ではありません」 キョン「根拠はなんだ?」 古泉「解決方法がわかってます」 ほう、では教えてもらおうか。 古泉「ですがこの状況も面白いのでしばらく放置します、機関の許可もありますし」 キョン「なんか釈然としないが、いつでも改変を戻せるんだな?」 古泉「まあ戻すのはあなたですがね」 なに笑ってんだてめぇ。 ようやく部室に平穏が訪れたので、スマイル仮面とチェスをしよう。 だがその平穏の名前は「つかの間の休息」だった。 以下音声でお楽しみください。 みくる「はいキョンくんお茶!」 キョン「ども。いやーいつもながらおいしいです」 みくる「いっいつもやってんだからお世辞なんていらない!」 長門「なになにダークマターがツンデレ~?キョンくんはゆきっちのものなの!」 みくる「あー!?だいたいダークマターの意味ちげぇだろバカ!」 長門「あんたはまだプライベートに謎が多すぎる生命体だからいいのよ。特に深夜ね、クスクス」 みくる「こ ろ す」 ハルヒ「おっお願いですからその」 みくる「なんだ団長やろうってのか?」 長門「ハルっちは危ないから逃げて」 ハルヒ「暴力はダメです~!」 みくる「今日こそ決着つけるぞ長門!」 長門「ふーんあたしの宇宙的パワーに勝てるのかしら」 ハルヒ「えっ?宇宙?」 キョン「まて朝比奈さんに長門!おまえらそれは」 ハルヒ「今のはどういうことなんでしょうゆきっち!?」 長門「げっゆきっちピンチ」 みくる「ほんとあんたバカね」 ハルヒ「宇宙的パワーってどんな感じですか!?やってみてください!」 オンリー音声タイム終了。なるほど不思議の話になると積極的になるあたり、たしかにハルヒである。 長門「たったとえばこんなの、えい!」 そう言って長門はポッケからトランプを取り出すと、子供でもできる手品をした。 ハルヒ「わぁすごーい!」 ハルヒがよろこんでる。純心っていいな。その直後にどこが宇宙的パワーなんですか、とハルヒに言われて長門は愛想笑いでごまかした。 ハルヒ「ゆきっちは面白い人ですね」 長門「そうかな~。それより今思ったんだけど、ハルっちはさ~」 ハルヒ「えーと?そんなに見つめないで・・・」 長門「やっぱりかわいい~!大人しいときなんて興奮しちゃーう!」 ハルヒ「かっ顔が近いですゆきっち!ぃひゃぁっ!」 長門「この強調し過ぎない胸なんて特にイイ!私なんてこんなひんぬーなのに!」 ハルヒ「ひぃああくすぐってぃ」 長門「聞こえなーい!」 二人ともそのままでいろよ、今カメラにおさぶがあぁぁ! みくる「なーにやらしい目で見てんのよキョンくん!そんなに私は魅力的じゃねーの!?」 キョン「いきなり腰に飛びげ」 みくる「そーう、じゃ今から私しか見れないように調教してやるわ」 いつのまにか朝比奈さんの右手にはムチがあった。あっ右手を振り上げイタッ! キョン「朝比奈さん!いたいじゃギャッ!」 みくる「いいわよーもっとイイ声でさえずってキョンくん。テイッ!」 朝比奈さんは何度も俺にムチを打ってくる。こらーそこのかしまし娘たち!怯えてないで止めてくれ。 このままMに目覚めてしまおうか、そう思い始めたとき聞き捨てならぬ言葉をハルヒから聞いた。 ハルヒ「キっキョンくんはこういう女性がお好きなんですか?」 うおおおなんとしてでも否定をしゲフッ! みくる「そうよね~キョンくん?ハイ!」 キョン「アッ―――」 遂には亀甲縛りされ、口にゾウキンを詰められた。えーとハルヒさん?なにもそこまで青冷めなくても? ハルヒ「そうだったんですか・・・」 長門「泣かないでハルっち、ね?」 ハルヒ「ゆきっち~!」 ハルヒが長門に泣きついた。長門は照れながらハルヒを抱きしめて頭をなでている。だから誤解だってば! 声を出せないのでひたすら顔を横に振ったが、気づかないようだ。 あれ古泉はどこいった?そう思った直後 長門「じゃあ今日はカイサーン!」 もうそんな時間か、じゃなくて誰か助けて。ておいみんな帰るんじゃねぇ!扉を閉めるなぁ! さて置いてかれてからしばらくすると、古泉が戻ってきた。閉鎖空間からの帰りか? 古泉「なにがあったか察しは着きます。とりあえず解放しましょう」 閉鎖空間は発生してません、と言われた。 古泉「涼宮さんは今怒ってるのではなく落ち込んでいます。今までのデータを参考にしますと、落ち込んでいる時には閉鎖空間は発生しません」 ようやく俺の拘束が解除された。 キョン「じゃあなんでおまえは消えたんだ?」 古泉「だって朝比奈さんが怖いんですもの」 テヘッとか言うな気持ち悪い。 それよりだ、この改変された性格ってのはあくまで「作られた」性格なんだよな? 古泉「正確にはある基準を基に性格を逆転させています。」 例えば涼宮さんは普段ゴウマもとい気が強い女性ですが、今回はとても庇護欲をそそる女性になってます。 古泉「ただ思考までは改変してないようで、『不思議』にはとても興味が注がれてましたね?」 キョン「おまえはいつから消えてたんだ?」 古泉「朝比奈さんがあなたにムチを振るい始めた時からです」 キョン「罰として明日の昼食代を払え」 いやです、と言われたが解答を聞く気はない。 さっきの話によると、改変された人の性格は変わるが考えることまでは変わらないらしい。つまり朝比奈さんは……。 俺が下校中朝比奈さんへの認識をひたすら上書きし続けた。 古泉「・・・すので、帰りましたらお願いしますね」 どうやらなにか話してたらしい、俺は改ざん作業で聞いてなかった。ああ、と答えておいた。 家に帰って夕飯食べて風呂浴びてテレビ見て歯磨きしてベッドに入った。そこ、勉強が欠けてるとか言わない。 今日一日のことを思い出す。古泉の言葉を借りると、庇護欲をそそるほどかわいいハルヒ。ちょっぴりサディスティックな朝比奈さん。少々毒舌だが人なつっこい長門。案外悪くはなかったし、むしろ楽しかった。 あれが本来の性格でないのはわかっている。ゆえにどちらが良いかと聞かれたら間違いなく俺は 元の性格のかしまし娘たちをとる。 体のあちこちが痛い俺は早めに寝ることにした。 痛みで目が覚めた。妹が起こしにきたのかと思っていた俺は恐怖を感じた。俺は上半身裸でパジャマのズボンを着ていた。寒いな。 ハルヒ「ほらほら勉強の時間よ!」 ハルヒがスクール水着を着て、朝比奈さんのより丈夫そうなムチを使い慣れた手で俺に振るってきたのだ。 俺は逃げようとしたが、足が動かない。いてぇ。 両足が縄で縛られ、手も後ろ手に縛られていたのだ。 急に腰に重みを感じ、うつぶせにされた。ハルヒが馬乗りになったのだ。 ハルヒ「さあさあ良い声でさえずりなさいキョン!あたしたちの愛を確かめるように!!」 そう言うとハルヒは俺に首輪をはめ、首輪に繋がれた鎖を思いっきり上に引っ張りやがった。 キョン「グァァッ!」 ハルヒ「もっと!上手にできたら天国と地獄を同時に感じさせてあげるわ!アハハハハハ!!」 暴れたくても、馬乗りされて思うように動けず息も詰まっていた。 しばらくその体勢でいると、いきなり足に衝撃が走った。 キョン「ウワアアアァァァァ!!!」 ハルヒ「そうよその調子よ!ムチなしで鳴けたら完璧よ!!」 そう言うとハルヒはうつぶせの俺に重なるように抱きついてきた。 ハルヒ「温かいでしょう。これはあたしの愛よ、キョン」 休憩よ、と言い俺から離れると、ハルヒは不気味に明るいこの部屋の隅でくつろぎ始めた。 もはや話す気にもなれないので縄をちぎろうと懸命に抗っていると声が聞こえた。 「大丈夫ですか?」 誰だ?そしてどこにいる? 古泉「ここです」 耳元で聞こえていることに気づいた俺が声の方向に振り向くと、今にも消えそうな小さな光る玉がいた。 古泉「声を出さずに聞いてください。ここは特殊な閉鎖空間です」 閉鎖空間は本来神人が暴れるところですが、ここは神人が存在しない代わりに神がいます。 古泉「これは昔あなたと涼宮さんが行かれた閉鎖空間と似ています」 ですが涼宮さんは世界を放棄したわけではありません。よって我々の世界が終焉を迎えることはありません。 キョン「長い。要約しろ」 古泉「失礼。原因はあなたが涼宮さんに性格改変を望ませたことです。一昨日は大人しい性格に、昨日は『あの』朝比奈さんのような性格にね。」 すくなくとも今は日付が1日進んでるんだな、とか悠長なことを考えた。 古泉「この事件の解決法と閉鎖空間からの脱出方法はおそらく同じです。先程も言いましたが、あなたが涼宮さんを恋愛対象として認めたことを彼女に伝えればいいのです」 キョン「できるかそんなこと!!」 古泉「静かにしてください、あくまでフリです」 ハルヒ「どーしたのキョン?天国地獄のお時間よ~!」 しまった。おまえなにを口に入れるつもりだ。モガッ! ハルヒ「猿グツワ装備完了!鳴けなくなるのが嫌だけどしかたないわよね?」 そんな笑顔で言われても返答できねぇよ。 ハルヒはまた俺に馬乗りになった。なにやらカチッカチッという音が聞こえはじめた。なにをしてんだおまえは。 ハルヒ「あたしからの熱い愛のプレゼントをあげるわ!」 そう言うと、俺の脇に温かいものがアツッ!まさか ハルヒ「どう、ロウソクは熱いでしょう?あたしの愛なんだから当然よ!」 ライターでロウソクに火をつけたのか。このままでは俺の身がもたない。気持ちを伝えたくても口は塞がれている。 そのまま何十分経ったのだろう、実際は数十秒だろうが。 ハルヒ「なんでナいてんのよキョン?」 ナく?鳴けないぞ、てああ泣いてんのか俺。恥ずかしいね。 ハルヒは猿グツワを外すと、俺を仰向けにして悲しそうな顔で尋ねてきた。相変わらず馬乗りだが。 ハルヒ「答えてよ。なんで泣いてんのよ?あたしの愛が嫌い?」 俺は最後のチャンスである、と直感した。覚悟を決めて言う。 キョン「俺は今のおまえが嫌いだ!」 古泉「えっ」 ハルヒが顔面蒼白になってるが気にしない。ついでにどこかから「えっ」なんて音は聞こえなかったことにしておく。 キョン「俺はかわいげがあって人思いの女性が好きだ。だがな、今のおまえにはかわいげどころか邪気すら感じるぜ」 ハルヒ「あっあたしのこと・・・キライなの・・・」 キョン「ああ」 首輪の鎖を引っ張られ、ハルヒの顔の近くに顔を持ってかれた。ハルヒの顔に一筋の涙が見えた。 ハルヒ「なんでよ!あんたの好みの女になったのに!!」 キョン「じゃあ聞くが」 俺がいつ言った? そういうなりハルヒは顔をくしゃくしゃにして泣き出した。表現がどうであれ、こいつは本当に俺のことを好きなんだな。 これじゃ相思相愛じゃないか。 キョン「ハルヒ、おまえはなにか勘違いしてるぜ」 ハルヒ「何をよ!あたしは勝手にあんたのことを・・・」 キョン「泣くな。俺が言いたいのはな」 今まで通りのハルヒが良い、ということだ。 ハルヒ「ふぇ?えっえっえっ??」 キョン「性格なんて変える必要はない。少しワガママだけど可愛いげはあるし、なんだかんだで俺や長門や朝比奈さん、おまけに古泉のことも思って行動してたじゃないか」 ハルヒ「あっ・・・うん」 キョン「つまりなにが言いたいかっていうと、俺はえっとあのその・・ハルヒを・・」 ハルヒ「なっなによ、最後まで言ってよ・・」 ロウソクを押し付けられたわけでもないのに顔が熱い。ハルヒも顔を紅潮させていた。 キョン「い、言わなきゃだめか?」 ハルヒ「そうよ!こういうのは男からこきゃふゃくれ」 キョン「なに噛んでんだよ、笑わせないでくれ」 ハルヒ「うっうるさい!じゃあ少しじっとしてなさい!」 ああ、ハルヒの顔がだんだん近づいて ハルヒ「ん・・・」 目の前には目を閉じたハルヒの顔。互いの息が混じり合う。ハルヒの唇は甘く熱い。腕を縛られたままなのが残念だ。 ― 突如浮遊感に襲われた。直後俺はベッドに入ってることに気づいた。俺の部屋だな。服装も戻ってる。時計を見るとまだ6時30分である、じゃあお休み キョン「もうそんな時間かよ!!」 俺が驚きで体を起こすのと同時に、妹が部屋に入ってきた。悪いな妹、今日の俺は早起きだぜ。 朝飯を食べてる間も甘い感触を忘れることはなかった。 朝飯を食べ終えた俺が部屋で教科書をバックに積めていると、電話がかかっきた。 古泉「おかげさまで彼女たちの性格が戻りました」 キョン「それは良かったな」 古泉「序盤で一瞬頭がおかしくなったかと思いましたが、ややこしいことを言わないでもらいたいです。ヒヤヒヤしましたよ、冬だけに」 キョン「うるせーな、ハルヒのことを考えて言ったんだ」 古泉「まあさすがにあんな甘いひと時を直視してはいませんがね、フフ」 あれを見られたのか!?て当たり前か、こいつは閉鎖空間にいたしな。だがな、他人に見られるのは恥ずかしいだろ。 キョン「コイズミクン、あとで昼飯をおごれ」 古泉「冗談ですよ。まあ今回は手っ取り早い方法をとってもらいましたが、今後はより安全策をとるよう機関で検討します」 キョン「古泉、なにか勘違いしてるぞ」 古泉「えっ?」 俺がハルヒのことを好きなのは事実だ。ただお互いに素直じゃなかった、それだけだ。 古泉「そうですか。では僕からはこうしか言えません。おめでとうございますキョンくん、そして涼宮さん」 キョン「今だけは嫌みを感じなかったぜ。ありがとう古泉!」 古泉「ただ残念ですが」 なんだ?前言撤回していいか? 古泉「涼宮さんからすれば、あの閉鎖空間での出来事を『夢』と思ってるかもしれません。だからといって現実だと伝えてはいけませんよ?」 ああ、そんなことか。 キョン「古泉。正直なところ確証はないが、あれが夢だと思われたとしてもだ」 もう一度正式に告白すれば、ハルヒは了承するぜ。 古泉「フフッ涼宮さんは力によって女性団員三人の性格を逆転しました。そして純粋な愛情であなたの気持ちを友達から恋人へ逆転させた、というところですね」 キョン「なに難しいことを」 古泉「僕は二人の恋が成就することを祈ります」 キョン「ありがとう」 俺が玄関のドアを開けると、目の前にハルヒがいた。 キョン「おー今日もか」 ハルヒ「うっうるさいわね!遅刻しないか心配に・・・じゃなくてその・・」 キョン「ありがとよ。ほれ学校行くぞ」 ハルヒ「・・・うん」 あのしおらしいハルヒを思い出した。ハルヒは顔を少々赤く染めて俯いていた。 登校中俺たちは黙って歩いていた。不思議とくそ寒い気温なのに温もりを感じた。 学校の正門辺りでハルヒが口を開いた。 ハルヒ「なっなんか今日最こ、最悪の夢を見たのよ」 笑みがこぼれてるぞ、とは言わず俺は同じように笑って言った。 キョン「奇遇だな、俺もさ。もしかしたら同じ夢かもな」 ハルヒ「・・・そうかもね!」 授業中はいつもの睡眠ハルヒに戻っていた。おいおい寝言で俺を呼ぶな、恥ずかしいだろ。英語教師が睡眠ハルヒを見て落胆してたことは内緒にしておこう。 昼休み、俺はハルヒを文芸部室に連れて行った。部室に入ると誰もいなかったが、イスにぶ厚い本が一冊置いてあった。なるほどね、ありがとう長門。 真っ赤に頬を染めたハルヒはなんだか落ち着かない様子だった。さて人生の出発点を定めよう。 「ハルヒ、聞いてくれ。俺はハルヒのことが好きだ」 幸せを手に入れた二人。私はあなたたちを祝福しよう。 幸せ。「幸せ」とはどのようなもの? これの後日談「神の末路」へ続く。 ―――――end――――――
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第 四 章 情報爆発から一夜が明けた。 俺はこれからの行動計画を考えた。俺がすべきことは大きく分けて三つある。 機関を立ち上げること。 未来人がTPDDを得るきっかけを与えること。 そして、ハルヒを救うこと。 さらに俺には絶対に避けなければならないことがあった。 ひとつは当然ながら、自らが既定事項を崩す行動を取らないことだ。 俺の誤った行動によって、未来が俺の知る元の未来と変わってしまえば、全てが水の泡だ。 そして、もうひとつはさらに重要だった。 情報統合思念体に、俺の存在を知られることは絶対にあってはならない。 老人の話を信じるとすれば、書き換えられたこの歴史では、情報統合思念体は俺の存在を知らない。ハルヒの周辺に関する記憶を全て抹消すると言っていたからな。 気をつけなくてはならないのは、俺がTFEI端末に不用意に接触することだ。 たとえそれが長門であってもだ。 もし俺がTFEI端末の周囲に近けば、奴らは俺の記憶を読み取るのに些かの労力も必要としないだろう。 そして俺が情報統合思念体を消滅させる意図を持っていることを奴らに知られれば、俺はかなりまずい状況に立たされる。 情報統合思念体から攻撃を受けることは容易に想像出来る。 過去の長門の行動から推測すれば、おそらく記憶を読むのに必要な距離は半径十メートル程度だろう。 長門は最終的には俺と行動を共にし、ハルヒを救うために情報統合思念体の抹消を提案してくれた。だがそれはあくまでも卒業式以降の歴史である。 それ以前の長門に俺の意志を知られることによって、長門が俺の敵にならないという保障はどこにもない。 長門を敵に回すなんてことは俺には絶対に考えられなかった。 TFEIだけではない。未来人や超能力者、その他一般人を含めた誰にだろうと、今の俺に過去の俺の面影を見出されることは好ましくない。 そういうわけで、俺は髭を伸ばし、目が弱いという理由でサングラスをかけ続けることにした。怪しげな組織の創設者には怪しげなスタイルが似合うのさ、おそらく。 次に俺は、世界と歴史、とりわけハルヒの周辺が情報統合思念体によってどのように改変されているのかを確認することにした。 ハルヒがどこの高校に入学しようとも、俺は最終的に北高に行くように歴史を修正するわけだが、それでも今ハルヒがどこにいるのかを知る必要はある。 ハルヒの周囲には観察のためのTFEI端末がいるはずだ。 俺がハルヒの居場所を知らないがために、迂闊にハルヒの周囲に近づくということは、すなわちTFEI端末に発見される危険性が高まるということだ。 俺は、この時代から三年後の北高の入学式、つまり俺たちが北高に入学した日の登校時間に移動した。 おそらくハルヒは北高には入学しないだろう。 情報統合思念体が全ての歴史を書き換えたのだとすれば、ハルヒがジョン・スミスに会う歴史は生まれていないはずだ。 だが俺は一応の対策として、北高の近くを見張るのは避け、登下校ルートが見渡せる建物の屋上を探し出し、そこから双眼鏡で観察することにした。 学生たちをつぶさに観察出来るほど双眼鏡の倍率は高くなかったが、それでもその中にSOS団メンバーが混じっていればすぐに解るだろう。 三年間ずっとつきあってきた。例えそれが双眼鏡越しの後姿だとしても、俺は一目で判別する自信がある。 予想どおり北高にハルヒの姿はなく、長門の姿も見当たらず、大汗をかきながら暗澹たる気分で坂道を登る高校一年の俺の姿しか発見出来なかった。 入学式の日は新一年生のみの登校であり、朝比奈さんの姿は当然確認出来なかった。 だが翌日もおそらく朝比奈さんは来ず、しばらく経って古泉が転校してくることもないだろう。まだ未来人組織も古泉たちの機関も出来ていないんだからな。 では朝比奈さんと古泉は解るとして、ハルヒと長門はどこだ? 俺は時間移動で再び登校時間に戻り、ハルヒの家から比較的近い、市内の高校をひとつずつ同じ方法で調査することにした。 さっき北高の通学路を張っていた俺と同じ時間平面に来ている。 つまりこの時間平面には今の俺と北高を張っている俺の二人がいるわけだ。 無駄にややこしい。俺はまず、文化祭の映画撮影で使ったロケ地である朝比奈さんが突き落とされた池に程近い、学区内では一番の進学校に向かった。 長門が世界を改変したときとは違い、光陽園女子が俺の知る中高一貫のお嬢様女子高のままならば、ハルヒにとってその進学校が最も適切な選択のはずだ。 双眼鏡の視界を校門付近に固定し、しばらく観察を続けた。 見つけた。 これから始まる学校生活への不安や期待を一様にその表情に浮かべる新高校生の中で、ただ一人だけ、俺が初めて会ったときと同じ100%混じり気なしの不機嫌イライラオーラを放出し続けている、見慣れた黒髪の女の姿を。 そして、同じ高校に朝倉と喜緑さんの姿も発見した。 だが長門の姿は見えなかった。長門はハルヒの監視役。 ハルヒがそこに通うのであれば、長門も当然ながら同じ学校に通うのが筋というのものだ。なぜ長門はいないんだろう。 俺には他にも気になっていることがあった。 今の歴史では、俺とハルヒの将来はどうなっているんだ? 俺は、俺が元いた時代、つまり俺とハルヒが結婚していた頃に移動した。 予想どおりだった。俺とハルヒは結婚していない。当たり前だ。 北高での出会いがなければ、俺とハルヒの人生には永遠に交差する点は訪れないだろうからな。 そしてこの歴史では俺は大学には行かず、専門学校を卒業したものの、就職難でフリーター真っ只中にいた。なんてことだ。俺はあらためてハルヒの補習授業のありがたみを実感した。 では一体ハルヒはどこにいる? 俺はハルヒの実家を遠くから見張ってみた。 だがいつまでたってもそこにハルヒの姿は見出せなかった。 次に一年間時間を遡ってみた。そこには大学に通う、さっき進学高で見たのと同じ、混じり気のない不機嫌な表情そのままのハルヒがいた。 そこからさらに半年間時間を進める。大学卒業前のハルヒを発見した。 なるほど、ならば大学を卒業してすぐに引越しでもしたのか? そうしてハルヒがいなくなった時期を少しずつ絞り込んでいき、ようやく真実にたどり着い た俺は、あまりのことに茫然自失した。 ハルヒの実家にかかる鯨幕。訪れる弔いの人影。外側からわずかに見える祭壇。 ハルヒの写真。 ハルヒは大学を卒業してしばらく後に、やはり原因不明の難病で命を落としていたのだった。 俺は直感した。何らかの理由で情報統合思念体が自律進化の可能性を捨て、不確定要素であるハルヒを亡き者にしたのだろうと。 過去のハルヒは高校一年の五月と高校三年の二月、二度世界を作り変えようとし、そしてそれは俺の存在により未遂に終わった。 だがこの歴史では、ハルヒを止められる者はおそらく誰もいない。 情報統合思念体は、自律進化の可能性と世界改変による自らの消滅の可能性を天秤にかけた末に現状維持を望み、世界改変を未然に防ぐためにハルヒを死に至らしめたのだ。 奴らは情報爆発以降のハルヒへの手出しは危険と言っていたが、この歴史ではこういう判断を下したのだろう。 これはあくまでも想像でしかない。 だがやつらの動機としては十分に考えられることであり、 他にハルヒが原因不明の病気になる理由は考えられない。 暴走した長門が世界を変えてしまった時の喪失感、そのときとは比較にならないほどの感覚を俺が襲っていた。 情報統合思念体によって、俺は一番大切な思い出を奪われ、一番大切な人を二度も殺されたのだ。 こんな未来など俺は絶対に認めない。認められるはずがない。 俺とハルヒが北高で出会う歴史を作るためには、あの七夕でのジョン・スミスとの出会いが必要だ。 それだけではない。俺がハルヒと結婚する未来を確実にするためには、おそらく俺の知る過去の事象を全て「既定事項」として作り出さねばならないはずだ。 俺は今日の時間移動であることに気づいていた。 俺が機関を作らずとも、世界は終わっていない。 俺が作らなければ、他の誰かが元の歴史とは別の超能力者組織を作るのだろう。 だがそれで古泉が北高に入学する保障はどこにもない。 やはり機関は鶴屋さんの言葉どおり俺が作るべきなのだ。 俺はこれから、歴史を改変する度に、その結果を検証しなければならない。 歴史というブラックボックスに対して改変というインプットを与えた際に、アウトプットと なる未来がどう変化するのかを理解する必要がある。 結果を正しくフィードバックしてこそ、正しい歴史を作ることが出来るのだ。 そして検証作業を今日のように俺一人の手でおこなうのは、今後は不可能となるだろう。 ハルヒが北高に入学すれば、その後は北高内部の情報収集が不可欠だ。 だが俺自身はTFEI端末に近づけないという理由でそれを出来ない。 つまり、俺には情報収集を肩代わりしてくれる存在が必要だ。 ならば最初にやるべきことは決まった。 俺は機関を立ち上げることを最優先課題にすることにした。 その日の夜、機関創設に関する当主との打ち合わせが開かれた。 まず俺は、鶴屋さんに正体がバレたこと、一応の口止めをしておいたことを正直に明かした。 当主は笑いながら、 「あれは異常に勘のよい娘でして、私も昔からよく困らされております。ただ物事の本質や何が大切かということもよく解っているようです。口の堅さは保障しますので、どうかお気になさらずに」 と言って許してくれた。日々、物理的に頭が下がりっぱなしである。 俺は機関創設計画の草案と、それに伴い必要になるであろうことについて話した。 何よりもまず超能力者を探し出してそれを集める必要があること。 閉鎖空間の発生とともに、超能力者がすぐに対応出来る体制をつくること。 超能力者とは別にハルヒの監視役が必要なこと。 未来人や情報統合思念体などの別勢力に関する情報収集をおこなう人員が必要なこと。 その他、雑務をこなすための人員が必要なこと。 それらを実現するために、信頼のおけるスポンサーを集める必要があること。 当主はひと通り聞き終えると、俺の意見に全面的に同意してくれた。 「閉鎖空間が発生した際には、よろしければご招待します。是非一度ご覧いただき、その目でお確かめください」 「それは実に興味深いですな。楽しみにしております。ああ、それと、」 当主はまたしてもありがたい提案をしてくれた。 「私も出来る限りの協力は惜しみませんが、とはいえ立場上常に時間を取れるわけでもありません。私の代わりにあなたをサポートする、言わば秘書のような者を紹介したいのですが。いかがでしょう?」 「ありがとうございます。何から何まで、本当に痛み入ります」 果たして一体俺は既に何度当主に頭を下げているだろう。 打ち合わせを終了し、俺は離れに戻って具体的な計画を考えた。 さて、その超能力者たちを一体どうやって探し出そうか。 俺は、俺が初めて閉鎖空間に連れて行かれたときのタクシーの中で、古泉が言ったことを思い出していた。 超能力者たちはハルヒによって能力に目覚め、それがハルヒから与えられたことを知っている。 超能力者たちは自分と同じ能力を持つものが自分と同時に現れたことを知っている。 超能力者たちは閉鎖空間の出現を探知でき、その中で自らが何をすべきなのかを知っている。 超能力者たちは神人を放置しておくと世界が終わってしまうことを知っている。 そしてそれらのことはおそらく昨日、ハルヒの情報爆発によって全ての超能力者にもたらされたはずだ。 超能力者たちはハルヒの存在を知っている。ハルヒの周辺を見張っていれば、彼らのうち誰かが何らかの目的でハルヒに接触を試みるかもしれない。 だが具体的にどこまでハルヒのことが解るのだろうか。 彼らはハルヒの所在まで特定出来るのだろうか。 俺の知る機関の連中はハルヒを神扱いしていた。仮にハルヒの居場所が解るとして、神に近づくなどという大胆な超能力者はいるだろうか。 いや、彼らは昨日今日能力を与えられたばかりで混乱しているかもしれない。 神に対して大それた行動に出ないとも限らない。 ならばハルヒのガードが必要になるかもしれない。 いや、どちらかと言えば超能力者のガードになるだろう。 超能力者の誰かがハルヒに危害を及ぼすのを放置すれば、TFEI端末に消される可能性も充分に考えられる。 他に超能力者と接触する方法として考えられるのは、閉鎖空間が発生したときに彼らを探し出すことだ。 彼らは閉鎖空間の出現だけでなく、場所までを正確に把握出来る。そして彼らは強制的に与えられた自らの使命を果たすべく、おそらくそこに集まるだろう。 そして俺もおそらくその発生を探知出来ると考えられる。 いつかの野球場で古泉や長門とともに朝比奈さんが見せた態度、あれは閉鎖空間の発生を感じ取ってのことのはずだ。 だが閉鎖空間はいつ発生するんだ? 未来に飛んで閉鎖空間の発生時間を調べてみるにしても、飛んだその時に閉鎖空間が発生していない限り、俺にはそれを探知する術はない。 どうやらこちらの線は閉鎖空間の発生を待ったほうがよさそうだ。 とにかくどちらの方法でもいい。誰でもいい。 一人でも超能力者と接触出来れば、そこから芋づる式に超能力者は見つかるはずだ。 翌日、俺は閉鎖空間の発生までハルヒを監視することにした。 ただ待つだけというのはどうも性に合わない。 ハルヒは既に小学校を卒業していたため、俺はハルヒの実家を張ることにした。 仮に超能力者の誰かがハルヒに近づくとすれば、ハルヒの外出時を狙うだろう。 ハルヒの家の周辺を見渡せて、かつハルヒを監視する俺以外の存在から見つからないであろう監視場所を探すのには苦労した。 ただでさえ高所から双眼鏡を使って監視するのだ。 TFEI端末でなくとも、一般人に見つかれば警察に通報されるかもしれない。 時間移動で難を逃れられるとはいえ、無用なトラブルは避けるべきだ。 俺は一時間ほどかけてようやく監視に適した場所を見つけ、ハルヒの外出を待った。 一分置きの時間移動を繰り返し、十秒間監視をおこなう。 外出するなら朝の七時から夕方五時くらいまでだろう。 その十時間を約二時間弱で監視する計算になる。 初日にはハルヒは結局一度も外出をせず、俺はその翌日から三日後まで順々に飛び、同様に監視を続けた。 ハルヒは一度だけ外出し、俺はしばらくそれを尾行したが、結果は芳しくなく超能力者らしい人影は現れなかった。 俺は元の時間平面、つまり情報爆発の翌々日の夕方頃に戻った。朝頃に戻っても構わないのだが、あまり実際の活動時間とズレるのは体内時計によくなさそうだ。 「紹介します」 翌日、当主にサポート役として引き合わされた女性を見て、俺はまた腰を抜かしそうになった。 年齢不詳の美女。あるときは別荘のメイドとして、あるときはカーチェイスの末に敵対勢力を追い詰め、その能力を遺憾なく発揮したあの人が目の前に立っていた。 「はじめまして。森園生と申します」 俺は実感した。少しずつだが、確実に歴史は俺の知るものと繋がりつつある。 森さんはこの時点で既に様々な技能を身につけていた。秘書能力、あらゆる事務能力などに加え、諜報能力、六カ国語を使いこなし、武術にも長け、射撃に関してもひととおりの心得があるとのことだった。ところで射撃って一体何だ? 森さんは、スーツの左側を開いてみせた。内側にホルダーが備え付けらており、その中にはすぐさま使用するのに何の不都合もないであろう状態で拳銃が収まっていた。 朝比奈さん(みちる)を誘拐した連中とのカーチェイスの際、俺が森さんに底知れない何かを感じたのは間違いではなかった。やれやれ、一体森さんはどういう経歴の持ち主なんだ? どこかの諜報機関の女スパイか何かなのだろうか。 そして、森さんのような人材をたちどころに調達することの出来る当主が一番底知れない人物であるのは言うまでもない。 既に森さんは当主から大方の説明を受けていた。俺が未来人であることを除いて。 「機関のエージェント確保やスポンサー探しについては、当主が当たってくれています。我々は、当面は超能力者を探し出すことに重点を置きます」 森さんにハルヒの監視を引き継ぐことにした。ハルヒの身の回りに超能力者らしき不審な人物が接触を図る素振りがあれば、ただちに制止して尋問して欲しいと。 俺は遠くからハルヒを監視することは出来ても、ハルヒに近づくことは出来ない。 おそらく、ハルヒの周辺を監視しているTFEI端末がいるだろうからな。 俺が以前、朝比奈さんに連れられて長門のマンションに行ったとき、つまり俺が中学一年の頃の七夕のときには、長門は既に北高の制服を着ていて、俺が高校一年のときに見たそのままの姿だった。 そして長門は三年間あのマンションで孤独に待機していたのだ。 おそらく長門・朝倉・喜緑の三人は高校専用のTFEI端末で、今この時代の彼女たちは待機モードであり、今のハルヒや中学生のハルヒを監視するための別のTFEI端末が存在するのだと思われる。 既にこの三日分の観察は終わっているため、理由は言わずに、四日後から監視に入って欲しいと告げた。 俺は、田丸氏の存在を思い出し、別荘の線で田丸氏とコンタクトが取れないか調べることにした。 一週間かけて、高一の夏休み序盤に招待された、あの島の所有者の変遷と身辺を調査した。だが、結局そこに田丸氏らしき人物は見出せなかった。 どこかの山中に俺は立っていた。暗い。 得体の知れない寒気のようなものを感じる。 森に囲まれた平地に、おぼろげに噴水が見える。 わずかな光に照らされた全てのものは、その色を失っていた。 背後から聞いたことのある少女の泣き声。振り返る。 広場の一角に、ひときわ明るい光に包まれた人形が立っていた。 人形はどこか寂しげな様子で、あたりを見回している。 やがて人形だったそれは、光を失いながら霧のように拡散していった。 また夢を見た。夢の中の泣き声は、前に見た夢と同じ持ち主によるものだった。 この夢は誰が見せているものなのか? ハルヒ、お前なのか? それからしばらくして、夢の意味が解った。 遂に閉鎖空間が発生した。ハルヒの中学校入学式の夜。 ハルヒよ、お前は中学に入っていきなりイライラを爆発させちまったのか? 予想通り俺は閉鎖空間の発生を探知することが出来た。 時空振動に似た感覚が俺を襲った。 だが俺にはその場所が特定出来なかった。 振動を感じ続けてはいるものの、震源地の方角すら解らなかった。 俺はやはり夢にかけてみることにした。なぜなら、あの夢の中で感じていた寒気と同じものを、俺が今実際に感じているからだ。 当主を閉鎖空間に案内するのは次回以降でよいだろう。 現時点では俺にだって閉鎖空間を探し当てられるという保証はない。 森さんに連絡を飛ばす。 「閉鎖空間が発生しているようです。車を手配してすぐに来れますか?」 「了解しました。五分で到着します」 そう言った森さんは、本当に五分きっかりに鶴屋邸前に到着した。 「どちらへ向かいますか」 夢の中のおぼろげな風景。だが、俺はその風景に確かに見覚えがあった。 森さんの運転する車で向かった先は、SOS団の映画のロケ地、あの森林公園だ。 十分ほどで到着した俺たちは、駐車場に車を停め、さらに徒歩で三十分かけて噴水のある広場まで登った。 朝比奈さんと長門の対決シーンを撮った広場。そして朝比奈さんがレーザーを発射し長門に押し倒されたあの場所。 おそらくここで間違っていない。広場内の他の場所よりも、この場所で特に例の寒気を顕著に感じるからだ。 「ここに閉鎖空間が発生しているのですか?」 森さんが不安げに俺を見る。彼女の不安はおそらく閉鎖空間という得体の知れないものに対してではなく、本当にこの場所で大丈夫なのかという、俺に対する不安であろう。 「確証はないですが、こことは別の次元のこの場所で神人が暴れています。そして超能力者たちは今まさに神人との初めての戦闘をおこなっているはずです。神人を倒せば閉鎖空間は消え、超能力者たちが現れます」 これで俺の見当違いだったらかなり申し訳ないな、と思いつつも俺たちには待つ以外に方法はなかった。 あまり口数の多くない森さんとの気詰まりを感じながら、二時間ばかり待っただろうか。 不意に寒気が消えた。 と同時に俺たちがいる場所を取り囲むように三人の男性が突如として現れた。 そこに古泉の姿はなかった。 それぞれ二十代後半、ハイティーン、ミドルティーンと言ったところだろうか。 彼ら三人には神人との戦いを通じて既に共通認識が芽生えているようだった。 そして、そこに異端の者として俺たちが突っ立っている格好だ。 OL風スーツに身を包んだ女性と、やはりスーツ姿にサングラスと髭面の男が、こんな夜中にこんな山中に立っているのだ。これはもう、誰がどう見たって怪しい。 俺は、ひとまず敵意のないことを示すため、彼らに微笑んで見せた。 森さんはと言えば、実に見事なエージェント的笑顔を向けていた。 それは鏡を見て練習でもしたんでしょうか? しかしながら、超能力者三人はあからさまに俺たちを警戒している。 まあ当然の反応だろう。 「俺の話を聞いてくれませんか」 「お前は何者だ」 年長と思われる超能力者が俺に歩み寄った。 俺は彼らの気持ちを考えてみた。きっと今の状況を不安に思っているに違いない。 ハルヒによって何の前触れもなく突然能力を与えられ、その使い方を理解し、否応なく薄気味悪い夜の山中に出向かされ、さらに薄気味悪い空間で神人と戦わなければならない彼らの心境を考えれば、にこやかに話に応じることなど出来るはずもない。 心の底から気の毒に思う。 「俺はあなたたちの味方です」 「お前は俺たちのことを知っているのか」 「あなたたちがどこの誰なのかを知っているわけではありません。ですがあなたたちが何故ここにいるのかは解ります」 三人は顔を見合わせた。 「どうやってお前を信じればいい」 「あなたたちに能力を与えた涼宮ハルヒを知る者、と言えば信じていただけますか?」 その名前を聞いて、彼らは納得したようだった。 「解った。話を聞かせてもらえるか」 俺は超能力者を集めた組織を作る予定であること、そのメンバーに加わってもらいたいということ、閉鎖空間の発生とともに超能力者が出動出来る体勢を整える予定であること、超能力が消滅するまでは責任を持って生活を保障すること、などを伝えた。 森さんは名刺を渡すとともに彼らの連絡先を確認し、詳しいことは明日にでもこちらから連絡する、とを伝えた。 俺たちは、北口駅前近くのビルの二フロアを借り、そこに機関の本部を構えた。 超能力者やエージェントが増えるにつれ、ここもいずれ手狭となるかもしれない。 超能力者は他の超能力者の存在を知ることが出来る。最初の三人を無事仲間に加えることが出来た俺たちは、それを頼りに他の超能力者を次々と探し出した。 だが古泉はなかなか見つからなかった。 「まだ残りの能力者の所在は掴めませんか?」 「残念ながら、進展なしですね」 俺と話しているのは、森林公園で会った三人のうちの年長者で、今は超能力者たちのリーダー的存在の人物だ。 「見つけ出せない理由はおそらくですが、本人が能力に気づいていないか、あるいは自らの能力を受け入れていないか、のどちらかでしょう。ですが能力に気づいていないというケースは今まで発見された能力者では該当者はいません。私たちと同様に能力を身につけた者は、自分に何が起こったか、何をすべきかをその瞬間に理解しいるはずです」 「残された超能力者は後何人くらいいそうですか?」 「私たちには残りの能力者の場所は解らなくとも、存在はなんとなく解るんです。感じると言いますか。これは既に集まっている能力者共通の意見ですが、この世界で同じ能力を持つものはおそらく十人程度と考えられます。現在のところ機関に所属している能力者は八名。つまりおそらくあと一、二名の能力者が残っているということになります」 あの卒業式の三日前に発生した大規模閉鎖空間では、機関と敵対勢力の超能力者を併せて二十人以上はいたはずだ。つまり、こちらの超能力者からは敵の超能力者の存在は感じ取れないということになる。 ハルヒによってあらかじめ敵、味方となる勢力を決められていたということだろうか。 「最初の閉鎖空間に向かったのはご存知のとおり私たち三名だけでした。私たちは早くから与えられた能力と役割を受け入れていたので、お互いがどこにいるかがすぐに解ったんです。それ以外の者はまだ覚悟が出来ていなかったんでしょうね。能力を受け入れていない者、つまり心を開いていない者の場所はこちらからでは解りません」 発見されていない能力者、つまり古泉はまだその能力を自ら認めていないということか。 「彼らの気持ちは解りますよ。私だって突然自分に未知の能力が身について、混乱しなかったと言えば嘘になります。ですが私は何事も楽観的に考えるタイプでして。逆に深刻に物事をとらえるタイプの人間にとっては、これはかなり辛いことだと思います。最初の閉鎖空間が発生しているときは、彼らは大変な葛藤をしたと思いますよ。想像してみてください。自分が異能の存在になってしまったことを認めたくない、閉鎖空間や神人はもちろん怖い、でもそれを放置すれば世界が終わってしまうかもしれない。これは相当な恐怖ですよ」 古泉は今もそういう日々を送っているはずだ。 「おそらく残された能力者の取る道は三つです。他の能力者と同じく覚悟を決めて能力を受け入れるか、このまま恐怖に押し潰されて自ら命を絶つか、あるいは閉鎖空間や神人発生の原因である涼宮ハルヒの殺害を謀るか、です」 古泉は言っていた。 「機関からのお迎えが来なければ、僕は自殺してたかもしれませんよ」 と。 迎えに行けるものならすぐにでも行ってやりたい。 だがお前からシグナルを発してくれなければ、こちらからは打つ手がない。 森さんによるハルヒの監視は継続していたが、やはり古泉が姿を現すことはなかった。 もし古泉がハルヒの殺害を意図すれば、こちらが保護する前にTFEI端末に消される恐れだってある。 既定事項では古泉は無事に機関に入るはずだが、今の歴史の流れでそうなる保障はどこにもない。 その数日後、もどかしい気持ちで過ごした日々はようやく終わった。 四度目の閉鎖空間が発生したその直後、リーダー格の彼から連絡があったのだ。 「今さっき、未発見の能力者一名の微弱な波動を感じました」 「了解です。森さんを能力者の確保に向かわせます。位置把握のために能力者を誰か一名使いますが、そちらは大丈夫ですか?」 「閉鎖空間の方はなんとかやってみます。規模はそれほど大きくないようですので、いけると思います」 「解りました。よろしくお願いします」 俺は直ちに森さんと能力者を手配し、波動の発信源へと向かわせた。 「氏名、古泉一樹。性別、男性。年齢、十二歳。××市立××中学の一年。発見時に極度の衰弱と精神錯乱を確認」 なんとか神人の迎撃を完了した後、俺は本部の一室で森さんからの報告を受けていた。 「随分暴れまして、保護するのに手間取りました。『僕は行きたくない』とずっと繰り返して おりまして。現在下のフロアの宿泊施設に収容しています」 「今は様子はどうですか」 「依然、精神錯乱が見られます。落ち着くまではしばらく機関で保護したほうがよいかと思われます」 「今会って話せますか」 「今日は見合わせて明日以降がよいですね」 森さんの報告によると、古泉は能力発現からずっと学校を休んでおり、つまり中学には一度も登校せず、家から出ることすら出来ない状態だったらしい。 古泉は今まで発見された超能力者の中でも最年少だった。 混乱が激しいのも無理はない。 翌日俺は本部に赴き、森さんとともに古泉と面会した。 ドアを開けたそこにはベッドの上で膝を抱え、うずくまる少年の姿があった。 「あんたたちは一体何なんだ」 俺たちに気づくと少年は顔を上げ、懐疑的な色の目を向けた。 顔つきこそまだ幼いが、それは確かに古泉だった。 俺の知る古泉とは異なり、随分と口調が荒いが。 「俺たちは君の味方だ。森さんから説明があったと思うが、君に俺たちの組織に入ってもらうために来てもらった」 「何だよ、涼宮ハルヒってのは。何で僕がそいつのせいでこんなに苦しまなくちゃならないんだ」 すまん、古泉よ。それは将来の俺の嫁だ。俺からも詫びを入れたい気分だ。 「こんな言葉で片付けるのはあまり好きじゃないが、これが運命だと思って受け入れてくれ。涼宮ハルヒのことだけじゃなく、俺とお前がこうして出会うことも含めてな」 「わけ解んないよ! 僕は嫌だ。あんなところには行きたくない」 まるで説得の糸口が見つからない。 「悪いようにはしない。しばらくここで俺たちの活動内容を見てから考えてくれればいい。他の能力者と話し合うのもいい」 「うるさい!」 しばらく説得を続けたが、俺の言葉は全く受け入れられなかった。 部屋を出ると、能力者のリーダーが待っていた。 「彼の様子はどうです?」 「かなり精神的に追い詰められているみたいです」 「無理もないですね。どうかご理解ください。私たちは涼宮ハルヒという鎖に縛られています。涼宮ハルヒは私たちに無理やりに能力を与え、神人という恐怖により絶対的服従を誓わせた、そういう存在です。そして私たちは涼宮ハルヒの精神状態によって右往左往させられる、実に惨めな存在なのですから」 ハルヒも無意識的にとは言え、随分罪作りなことをしたもんだ。宇宙人や未来人を集めるのは構わない。奴らは最初から宇宙人や未来人だ。 だが超能力者は違う。元はと言えば普通の人間だ。 それを勝手に超能力者に作り変え、おまけに自分のイライラを解消させるために使うんだからな。 「様子を見るしかないでしょうね。私たちも彼を落ち着かせられるようにしてみますので。彼は同じ能力者仲間ですからね」 数日後、森さんからの経過報告を受けた。 「あまり芳しくないですね」 「今はどういう状態ですか」 「精神状態は比較的安定傾向にあります。ですがまだ神人と戦える状態ではありません」 「つまり、どういうことです?」 「他の能力者の意見では、単純な問題でもないようです。神人への過度の恐怖心が原因でまだ完全に能力が発現していない状態とのことです。逆に、能力が発現していないからこそ恐怖心が余計に募るのかもしれない、とも。最悪の場合、ずっと能力が発現しないままの可能性もあると言ってました」 そうなると、俺の知る歴史には至らないんだが。これはどうしたものか。 古泉の部屋に赴く。 「よお、調子はどうだ。オセロでもやらないか」 古泉は軽く俺を睨んだが、ずっと部屋にいて退屈だったのか、誘いに応じた。 「ルールは解るか?」 無言でうなずく。 「どうだ、だいぶ落ち着いたか?」 無言でうなずく。 「他の能力者とは話してみたか?」 無言で首を振る。 まるで長門を相手にしてるみたいだ。 精神状態が安定したと言っても、こんな状態だといかんともしがたい。 ちなみに二ゲームやったが、この古泉も俺のよく知る古泉同様、ゲームは激しく弱かった。 あることに気がついた。森さんも古泉もそうだが、俺はそれをてっきり偽名だと思っていた。 怪しげな機関に所属するものが本名など使うはずがないと。 そんな疑問をそれとなく森さんに聞いて見た。 「これから起こることを考えれば、涼宮ハルヒの周辺にはプロ中のプロが集まります。相手がその気になれば身元など簡単に割れます。私たちが同じくそう出来るように。ならば本名を使った方が、余計な手間が省けます」 なるほど。エージェントの世界というのも色々と奥が深いものなんだな。 つまり俺は表立って機関に関わるのを極力避けた方がよいということだろう。 それからしばらくして、五度目の閉鎖空間が発生した。 俺は一計を案じ、古泉のいる部屋へと向かった。 「何ですか? 僕をどうしようっていうんですか?」 古泉はやっと普通に話せる状態には回復していた。 「今からちょっと付き合え」 古泉は明らかに怯えた顔で、 「僕をあのわけの解らない場所に連れて行くつもりですか?」 俺だってそのわけの解らない場所に何も知らないまま連れて行かれたんだぞ。 しかも連れて行ったのは誰あろうお前だ。 「なに、心配しなくていい。俺が閉鎖空間を見物したいだけさ。それに今日はお客様もいる。お前の力を借りたい」 「嫌です。僕はそんなところに行きたくない」 「神人退治をしろと言ってるわけじゃない。そこまではさせないさ。それともまだ逃げ続ける気か?」 「僕が何から逃げていると言うんですか」 俺の言葉にうまく乗ってきた。年下の扱いは昔から得意なんだ俺は。 性格をよく知る古泉相手ならなおさらだ。 「解ったよ。とにかくついて来い」 能力者への指令を森さんに任せ、俺は機関の車に古泉を乗せた。 「どこに向かうんですか? あの場所とは方向が違いますよ」 「さっき言っただろう。今日はお客様がお見えになる。粗相のないようにな」 到着したのは鶴屋邸。 お客とは以前から閉鎖空間に案内すると約束していた当主のことだ。 「やっと閉鎖空間とやらを拝めますな。楽しみにしてます」 「こいつが今日俺たちを閉鎖空間に案内してくれます」 俺は古泉を紹介した。 「ほほう、それはそれは。ご苦労ですがよろしく頼みますよ」 柔和な笑みを浮かべる当主に、古泉も安堵の表情を見せた。 これで少しは緊張がほぐれてくれればいいが。 しばらく車を走らせた先は、奇しくも俺が最初に古泉に連れて来られた場所と同じだった。 「壁の位置がどこだか解るか?」 「そこの交差点の歩道の丁度真ん中です。でも、能力者以外が入ることが出来るんですか?」 「出来るさ。俺たちだけでは入れないがな。だからお前をつれてきたんだ。侵入の方法は解るな? ならば俺たちを入れるのも簡単だ」 「解りますが……、僕はすぐに外に戻りますよ」 「ああ、構わない。よろしく頼むぞ。」 「では、しばらく目閉じてください」 俺と当主は古泉の指示に従い、古泉は両手でそれぞれ俺と当主の手を握った。 「行きます」 以前と同じように、古泉に手を引かれて俺たちは閉鎖空間に侵入した。 入るなり、瞼の奥に強い光を感じた。 目を開く。眼前に青い光の塊が広がっていた。 距離にしておよそ十五メートルほどだろうか、目の前に神人がいやがった。 近すぎる。予想外の展開だ。 「やばいぞ、脱出する。古泉、行けるか?」 返事がない。古泉は神人をじっと見つめたまま硬直していた。 「聞こえてるか!? 出るぞ!」 俺の問いには答えず、古泉は神人を仰ぎ見たまま動かない。 まずいことになった。少しずつ閉鎖空間に慣れさせようと連れて来たのが、これでは逆効果になりかねない。 だが、しばらくして古泉が発した言葉は見事に俺の予想を裏切ってくれた。 「綺麗だ……」 俺は長い付き合いを通して、古泉のことを少し変わった奴だとずっと思っていた。 その判断は正しかった。こいつはやはりどこかおかしい。 そして、荒療治は案外成功するかもしれない。 俺は左手で古泉の肩を叩き、右手で神人を指差してこう言った。 これで夕日でも落ちていれば、どこかの青春の一ページみたいなポージングだ。 「あれが神人だ。お前には釈迦に説法かもしれんが、あれの出現は涼宮ハルヒの精神状態が悪化していることを表している」 古泉が聞いているのか聞いていないのかは解らないが、構わず俺は続けた。 「つまりあれとの戦いは、やつのイライラとお前たちのイライラのぶつかり合いということになる。いずれやってみるといい。いいストレス解消になるぞ」 我ながら、かなりいい加減なことを言っていると思う。 「最初は大変だろうと思うが、慣れれば……そうだな、ニキビ治療みたいなもんだ」 これはお前が言った言葉だぞ、古泉。 俺は古泉の手が赤く輝き始めたことに気づいた。能力が発現したらしい。 「これは……?」 やがて古泉がかざした右手の上にハンドボール大の赤い光球が生み出されていた。 「それがお前に与えられた能力だ。試しに投げてみろ」 古泉は光球と神人をしばらく交互に見つめ、思い立ったように、滑らかかつ力強いフォームで光球を神人に向かって投げつけた。 そういやこいつは野球をやってたんだっけか。 それは見事に神人の腕に命中し、驚くべきことに神人の腕は粉々に砕け散った。 どうやら驚いているのは俺だけではなく、神人の周りを飛ぶ人間大の光球たちも、その動きでもって驚きを表現していた。 ルーキーが初打席で敵エースの決め球をバックスクリーンに叩き込んだようなもんだ。 そう言えばすっかり当主の存在を忘れていた。 振り返ると当主は相変わらずの笑顔でこの超常的な展開を楽しんでいるようだった。 この剛胆ぶりは鶴屋家の遺伝子のなせる技なのか? 「……あの飛んでいる光は?」 古泉は神人の周囲に群がる光点に気づいたようだ。 「あれはみんなお前の仲間だ。そしてこれから先お前にはもっと多くのかけがえのない仲間が出来る」 光球たちをじっと目で追う古泉に、 「そのうちお前もああいう風に戦えるようになるさ」 「どうやったら飛べるんですか?」 「それは俺には解らん。俺は能力者じゃないからな。だが他の能力者だって誰に教わったわけでもない。その気になればお前にだってすぐに出来るようになると思うぜ」 古泉は静かに目を閉じた。意識を集中させているようだ。 突然、古泉の体中から爆発するかのようにオーラが発生し、それはすぐさま球体となった。 古泉の体がふわりと浮いた。 「やってみろ」 光球が躊躇うかのように上下に揺れた。 しばらく後にそれは静止し、次の瞬間にはレーザー光のような鋭い軌跡で神人めがけて飛び立った。既に何度も見ている光景だが、その度に思う。まったくデタラメすぎる。 古泉の光球はそのまま神人の頭部を貫通し、神人は着弾点を中心に、外側へ向けて順々に光の霧となって崩壊した。 新たに加わった光球を温かく迎え入れるかのように、他の光球たちがその周囲を飛び回っていた。 閉鎖空間の消滅後、古泉は横断歩道の上でぐったりと座り込んだ。 俺は古泉の横に座った。 「お前がこの能力を与えられたのは偶然ではない。それがたとえ涼宮ハルヒによる理不尽な選択だとしても、それは全て意味のあることだ」 古泉は首から上だけをこちらに向けた。だがその目には輝きが生じていた。 「俺が保障する。この先何年間かは君にとって辛い日々が続くかもしれない。だがいずれそれを笑って話せるときが必ずやってくる。俺を信じてくれ」 古泉は二度まばたきし、そしてこう言った。 「解りました。今後ともよろしくお願いします」 こうして超能力者は集結した。 古泉は超能力者の数は世界中で十人くらいだと言っていたが、実は全員がこの周辺で生活している人たちだった。 ハルヒも随分と手近なところで超能力者を調達したもんだな。 逆説的に言えば、閉鎖空間はハルヒの近辺にしか発生せず、神人を撃退する者もこの周辺にいる必要があったということだ。 俺は、日本にしかやって来ないどこかの宇宙怪獣と、日本にしか存在しないどこかの地球防衛軍を思い出して、妙に納得した。 ある日、俺は鶴屋さんに図書館に誘われた。 「貸し出しカード失くしちゃってさっ。これから再発行に行くんだけど、ジョン兄ちゃんつきあってくんないっ?」 俺は機関創設に関する実務的な作業や、閉鎖空間の対応に追われていたが、たまには息抜きも必要だろう。 道路に面した側を俺が歩き、鶴屋さんに歩道側を歩くように促した。 「車に轢かれるからっかい?」 「それもあるが、車を横付けして誘拐されないようにするためだ」 「へええ? 色々考えてるんだねお兄ちゃん」 「前にもあったのさ、そういうことが」 朝比奈さんが誘拐された時のことを思い出していた。 あのときは森さんたちのおかげで難を逃れたが、ひとつ間違えば取り返しのつかないことになっていたかもしれない。あんな思いは二度とごめんだ。 連れてこられたのは、高校生の頃に長門と共に来た図書館だった。 「図書館の雰囲気っていいよねっ。家にも本はいっぱいあるけど、あたしはやっぱりこっちの方が好きさっ」 鶴屋さんがカードの再発行手続きをしている間、俺は長門と初めて来たときのことを思い出していた。 もうあれから七年以上経つ。市内不思議探索パトロールの第一回目、午後の部。 ハルヒ作成によるつまようじを用いた厳正なるくじ引き――それは場合によっては全く厳正に作用していなかったのだが――によって俺と長門とはペアを組み、明らかに時間を持て余した俺が長門をこの図書館に連れて来たのだ。集合時間を寝過ごしてしまった俺は、動かざること山よりも強固な読書集中モードの長門とともに集合場所へと向かうために、長門用の貸し出しカードを作り、本を借りてやったのだ。 思い出にふける俺に鶴屋さんは意味ありげな笑みで、 「お兄ちゃん、考えごと?」 「ああ、まあな」 「女の人のこと考えてたんじゃないっ?」 相変わらず勘がいいな。 「以前、俺の友達とここに来たことがあってな。そいつの貸し出しカードを作ってやったことを思い出してた」 「ふーん」 鶴屋さんには隠し事は通用しない。 だが鶴屋さんはいずれ北高に行き、TFEI端末と接触する機会がある。 鶴屋さんの記憶が読まれることだって想定しなければならない。 過去の俺を連想させるような言動はなるべく避けるべきだ。あまり詳しいことは言えない。 図書館を出た直後に携帯が鳴った。森さんからだった。 「閉鎖空間発生の恐れがあります。至急指令所にお越しください」 俺は鶴屋さんをタクシーに乗せ、ただちに空間移動で機関本部にある指令所に向かった。 「一号から入電。観察対象の精神状態極めて不安定。危険レベル赤に移行。閉鎖空間発生の恐れあり」 その直後に時空振がきた。九度目になる閉鎖空間の発生。 「閉鎖空間の発生位置の特定急げ」 森さんがオペレーターに対して的確に指示を飛ばす。 「二号に照会します」 一号、二号というのは最近使い始めた超能力者のコードネームだ。ますます怪しげな雰囲気になっているな。 「閉鎖空間は××線△△駅前を中心に、現在半径二十一.四キロメートル。今のところ閉鎖空間の拡大は認められず」 今まで発生した閉鎖空間の中では最大規模だった。 「一号から入電。神人の発生までおよそ二十四分の見込み」 指令所にはオペレーターが五名、閉鎖空間の発生に備えて常駐しており、有事の際には俺と森さんが駆けつけるという体制になっていた。 「移送要員の手配状況を報告せよ。待機、準待機中の能力者に対して直ちに出撃要請。何人出せるか?」 「二号、閉鎖空間に侵入。一号、閉鎖空間隔壁に到着。三号、六号、八号の三名、閉鎖空間に向けて移動中。九号、移送要員手配中、四号、五号、七号と連絡不通」 まだ指揮体制が作られてから間もない。 指揮系統に乱れがあるのは当然のことだろう。 「一、二、三、六号、閉鎖空間に侵入完了。神人迎撃準備中」 「神人発生までおよそ二分」 「八号、九号閉鎖空間に侵入」 「侵入した者より順次、迎撃準備体制に移行せよ」 「一号から入電。神人出現を確認」 「閉鎖空間拡大速度、秒速一キロメートル突破。なおも加速中」 俺が古泉に連れられて行った閉鎖空間とは段違いの規模だ。ハルヒの中学時代のイライラは当時よりはるかに深刻だったらしい。 「閉鎖空間拡大速度、毎秒三.一六キロメートルで安定。閉鎖空間半径百四十七.八〇キロメートル。拡大終了まであと三時間三十一分十二秒」 超能力者たちにしても、この頃はまだ試行錯誤の連続であり、それだけに神人の迎撃にも当然ながら時間がかかっていた。 つまり、閉鎖空間の拡大が速いか、神人の撃退が速いか、まさに時間との戦いだった。 「九号から入電。一般人が数名閉鎖空間に侵入している模様」 「なんだって?」 九号というのは、すなわち古泉のことだ。 「九号に回線繋いでくれ」 すぐさま、指令所に古泉の声が響き渡る。 「九号です。閉鎖空間に侵入した際に、一般人の存在を確認しました。視認では二名。侵入の方法、目的などは不明」 「解った。君は直ちに一般人の捜索と保護にあたってくれ。残りの能力者は神人の迎撃を継続」 「了解しました。以降、報告は外部のエージェントからお願います」 「能力者四、五、七号ともに閉鎖空間内に侵入。ただちに神人迎撃体制に移行。九号、再侵入」 予想外の闖入者に混乱を来たしたが、三時間後ようやく神人は崩れ落ちた。 神人により世界が閉鎖空間に飲み込まれることがないのは、俺が知る限りでは既定事項のはずだ。 だが、それにかまけて手を抜くことは決して許されない状況だった。対処を誤れば世界は間違いなく崩壊する。閉鎖空間の出現は俺にとっても緊張の連続だった。 「閉鎖空間に侵入した一般人は三名。現在機関所有のビルにて拘束中」 森さんからの報告だ。 「対処はいかがしましょう?」 俺はまず三人に会わせて欲しいと言った。 「よろしいのですか? 閉鎖空間や機関の存在が一般に知れるのは避けるべきと思いますが」 森さんが言わんとしていることは、何らかの方法で彼らの口を塞ぐべきだということだろう。だがそれは話をしてからでも遅くはない。 俺は、不可抗力で怪しげな空間に紛れ込んでしまい、怪しげな集団に拘束されている、これはもう不幸としか言いようのない三人と面会した。 そして俺はまた歴史の繋がりを再認識させられることになった。 「なんとまぁ……」 思わず独り言が出た。 紛れ込んだ一般人三名というのは、あろうことか新川さんと田丸兄弟だった。 三人とも、普通に街を歩いていて、突然辺りが暗くなったと思ったときには既に閉鎖空間の中にいたらしい。 面会を終えた俺は森さんに宣言した。 「この三人を機関のメンバーに加えます」 森さんは驚きの表情を隠せなかった。 「閉鎖空間に一般人が紛れ込むことは、これから先もほとんどないと言っていいでしょう。万一それが起こったとすれば、それは涼宮ハルヒの意思によるものです。彼らは我々に害を及ぼすものでは決してない、いや必ず我々の助けになってくれます」 仮説ではあったが、おそらく間違ってはいないだろう。ハルヒが自分の都合で他人を必要以上に不幸に陥れるなんてことあるはずがない。 何よりこの三人が機関に加わり、重要な戦力になることは既定事項だ。 機関の立ち上げ開始から二ヶ月が経ち、機関の骨格が完成した。 俺は、今後は機関に直接的に介入することはせず、オブザーバー的な位置に立つことにした。 俺にはまだ他にやらなくてはならないことが残っていたからな。 機関の上層部には超能力者のリーダー格の男性、スポンサーからの代表者、スポンサーが推薦する研究者などが集まった。 高校時代の俺の印象どおり、上層部は今ひとつ的外れな言動を繰り返す集団になりそうだったが、それも仕方がない。既定事項だ。 彼らには現実世界とのバランサー役として活躍してもらわねばならない。 俺の立場を知る森さんには、中堅の役どころに入ってもらい、俺に情報を流す役をお願いした。 次に古泉たち一般の超能力者、最後に各種実働部隊として新川氏、田丸兄弟などのエージェントを配置した。 あまり表立って機関に関わりを持つことを好まないという鶴屋家側の要望と、創設者である俺に注意が向かないようにしたいという俺の要望が一致し、鶴屋家は間接的スポンサーの位置に収まった。 そして、娘を危険なことに巻き込みたくないという当主の当然の意見と、将来北高に行くことになる鶴屋さんを深く関わらせるべきでないという俺の意見により、俺は機関に対し 「鶴屋さんには手を出すな」と厳命することとなった。 第五章
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いつもの放課後のSOS団の活動中の事だ。 日頃のフラストレーション溜まっていたのだろうか? 自分でも理解不能なイライラの全てを我等が団長涼宮ハルヒにぶつけていた。 俺が冷静さを取り戻した時にはもう部室にハルヒの姿は無く、背後に3つの憤怒のオーラを感じた。 俺は恐る恐るそのオーラがする方へ振り向いた。 その瞬間、いきなり長門が広辞苑の角で俺の頭を殴った。 なにしやがる!?と言おうとしたら今度は朝比奈さんがお茶入りの湯飲みを投げつけてきた。 それから逃げようとしたら古泉が俺の前に立ちはだかり俺の胸倉を掴んでこう言った。 「何やってるんですか!?今回の事はどう見てもあなたに全ての非がありますよ!今度こんな事したら閉鎖空間に置き去りにしますからね!!」 見事なジェット○トリームアタックだな。 いや、そうじゃない・・・ 「何やってるのかだと!?それは俺自身が一番知りたいさ!!」 そう言って古泉の手を払いのける。 「どういう事ですか?」 「だから、自分でもなんであんな事しちまったのか分からねぇって言ってんだよ」 「長門さん、何か分かりますか?」 「何者かの介入は確認されていない。これは若者特有の若さ故の暴走だと思われる」 「そうなんですか。それなら安心しました」 「何言ってんだ?理由は何にしろお前達にとってマズイ事態じゃないのか?」 「まぁ、そうなんですが、あなたが意識的に涼宮さんを傷つけたのならアウトでしょうが、無意識でやった事ならまだ救いは残されています」 「どういう事だ?結果的にハルヒを傷つけた事には変わらないだろ」 「そうですが、無意識でやってしまったならまだ関係の修復は可能という事です」 「そうなのか?」 「そうです。あなたの努力次第ですがね。ね、長門さんに朝比奈さん」 「そう。恐らく今晩中にあなたに何らかの変化が訪れるがそれはあなたを脅かすものではないと推測される」 「キョン君、ちゃんと涼宮さんと仲直りして下さいね。仲直りするまでお茶は淹れてあげませんから」 「はい、分かりました。毎度毎度、面倒掛けて悪いな」 「そこはギブアンドテイクという事で今日はもう解散しましょう」 古泉のその発言で今日は解散となり家路についた。 家に着いた後は、ずっとハルヒの事を考えていた。 幾ら振り払おうとしてもハルヒの事が頭に浮かんできた。 なんで、あんな事しちまったんだろうな・・・ そんな事を考えながら寝床に着いた。 目が覚めた時、俺は白一色の世界に居た。 どこだ?ここは・・・ 辺りを見回しても白一色だった。 すると聞き覚えのある着信音が聞こえた。 ポケットを漁ると俺の携帯電話が鳴っていた。 メールが来ていたので確認すると古泉からだった。 『目が覚めましたか?』 『あぁ、ここは何処なんだ?』 『そこは涼宮さんの日記の中です』 『日記の中?なんだって俺はそんな所に居るんだ』 『それは涼宮さんがあなたの事をもっと知りたい、自分の事をもっと知ってほしいと日記を書きながら願ったからだと長門さんは推測しています』 相変わらずムチャクチャだな・・・・ 『で、俺はどうすればいいんだ?』 『とりあえず、日記の中の涼宮さんに会って下さい。後の事はお任せします。ではそろそろ限界の様なので失礼します』 お任せしますって言われてもなぁ・・・ どうすりゃいいんのか分からんが、ハルヒを探すとするか。 白一色の世界を歩く。 それは進んでいるのかどうかも分からない世界だった。 もうどれ位歩いたかね? 是非、万歩計を付けたかったね。 足が重くなり始めた時、白い世界でしゃがみこんでいるハルヒをやっと見つけた。 「こんな所で何やってんだ?」 うずくまっているハルヒが顔をゆっくり上げた。 「別に。あんたには関係無いでしょ」 「あんな事しちまってごめんな。ホントに済まないと思ってる」 俺は未だにしゃがみこんでいるハルヒに頭を下げた。 罵声か蹴りが飛んでくると思ったがハルヒは思いもよらない事を口にした。 「あたしに謝ってどうすんのよ?そんな事しても意味無いわよ」 「どういう意味だ?」 俺には何がなんだかさっぱり分からなかった。 「そのまんまの意味よ。あたしはハルヒじゃないから謝っても意味が無いって言ってるの」 「ハルヒじゃない?だったらお前は誰なんだ?」 「あたし?あたしはハルヒが日記に込めた想いよ」 目の前のハルヒが何を言ってるのか理解出来ない。 ハルヒは俺の顔を見て笑いだした。 「フフッ、あんたってホントに間抜け面なのね」 まるで始めて会った様な言い草だな。 「まだ信じられないって顔ね。いいわ、少し見せてあげる」 そう言うとハルヒは立ち上がり片手を俺の頭の上に置いた。 その瞬間、何かが頭の中に流れ込んできた。 「な、何を!?」 抵抗しようとするが身体が動かない。 「いいから、おとなしく目を閉じて。すぐに終わるから」 俺は言われるがまま目を閉じた。 目を閉じると、瞼の裏に様々な映像が現れた。 怒っているハルヒ・・・ 憂鬱そうなハルヒ・・・ 顔を赤くしているハルヒ・・・ 落ち込んでいるハルヒ・・・ 泣きそうなハルヒ・・・ 笑っているハルヒ・・・ 俺は、ハルヒの事分かっているつもりだったけどまだ何にも分かっちゃいないんだな・・・ するとハルヒが俺の頭から手を離した。 「どう?見えた?」 「あぁ、俺は何にも分かっちゃいなかった」 「そうね。でも、それが普通なのよ」 ハルヒはいつもからは想像も出来ない様な穏やかな微笑を浮かべていた。 「ハルヒ、それはどういう意味だ?」 「だーかーらー、あたしはハルヒじゃないって言ってんでしょ?」 「あ、あぁ、そうだったな」 すっかり忘れてたぜ・・・ 「じゃあ、なんて呼べばいいんだ?名前を教えてくれ」 「あたしに名前なんて無いわ。ここにはあたししか居ないし、そんなのあっても意味ないもの」 「そうなのか?ここにずっと一人で寂しくないのか?」 「まぁ、たまに寂しいときもあるけどね」 そりゃ、そうだよな・・・ こんな何も無い世界で1人なんて俺には耐えられない。 「いい加減話を戻すけど、他人の事を全て理解してるなんて思ってもそれは他人の表面を理解しているに過ぎないの」 「そうなのかもしれない。でも、理解しようって努力する事は無駄じゃないだろう?」 「もちろん無駄じゃないわ。ん、そろそろ時間も無いみたいだから簡単に話すわね」 俺は自分の足元から段々消えている事に気づいた。 「おい、これはどうなってるんだ?」 「聞いてるでしょ?ここはハルヒの日記の中なの。だからあんたも元の世界に戻る。それだけよ」 「そうか。で、俺はどうすればいいんだ?」 「その答えはもうあんたの中にあるでしょ?それをすればいいわ」 「あぁ、そうだな」 もう俺の全身が消えかかっている。 「じゃあね、バイバイ。あの子、今回はかなり落ち込んでたからよろしくね。しっかりやらないと死刑だからね」 「あぁ、分かってるよ。色々世話になったな、ありがとよ」 そう言って俺は白い世界から消えたのだ・・・ 次に目が覚めた時は、いつものベッドの上だった。 あれは夢だったのだろうか・・・ そんな事はこの際どうでもいい。 あれが現実だろうが夢だろうが、俺がやらなくてはならない事は決まっているのだ。 いつもより家を早く出た俺は途中本屋に寄ってある物を購入した。 教室に着くとハルヒが不機嫌そうな面持ちで自分の席に座っていた。 俺は自分の席に着きハルヒに話掛けた。 「よぉ、相変わらず機嫌悪そうだな」 「そう思うならほっといてくんない?」 「そうしたいのは山々だが、1つ言っておかなければならない事があるから聞いてくれ」 「何よ?下らない事だったらぶっ飛ばすわよ」 「昨日はあんな事しちまって悪かったな。反省してる、すまなかった」 俺は深々とハルヒに頭を下げた。 「ちょ、いきなり何よ?いいから頭上げなさいよ!」 「許してくれるのか?」 「別に怒っちゃいないわよ。なんでいきなりあんな事したのかは気になるけど」 「あぁ、あれは若さ故の暴走らしい」 「はぁ?何言ってんの?訳分かんない」 「そうだ、正直俺にも訳が分からないんだ。でだ、俺の事をもっと分かってもらおうという事でこんな物を用意してみた」 俺は鞄から紙袋を取り出しハルヒに手渡した。 「何これ?開けていい?」 「あぁ、開けてくれ」 ハルヒが紙袋を開け、中に入っている物を取り出す。 「これ、日記帳?これで何するの?」 「あぁ、ハルヒ、俺と交換日記しないか?」 「何であたしがあんたとそんな小学生みたいな事しなくちゃならないのよ?」 「いや、ハルヒの事もっと知りたいし俺の事をもっと知ってもらおうと思ったんだが。嫌なら返してくれ。長門か朝比奈さんとやるから」 俺はハルヒから日記帳を返してもらおうとしたがハルヒは日記帳を手を放さなかった。 「わ、分かったわよ!仕方ないから付き合ってやるわよ」 「そうかい。それは嬉しいね」 こうして俺とハルヒの交換日記がスタートした。 この後、書く事に芸が無いとハルヒに散々怒られる事になるのは言うまでもない。 だが、これでもうハルヒの想いも一人白い世界で寂しい思いをする事も無くなるだろう。 なんたって、今は俺の想いも一緒に居るんだからな。 まぁ、日記の中の俺が今の俺と同じ目に遭っている様な気がしてならないのだが・・・ なんて事を今日も元気満タンの団長様に振り回されながら考えている。 終わり
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百物語というものをご存知だろうか。 一人ずつ怪談を話し蝋燭を消していき、100話目が終わった後に何かが…!!というあれである。 俺は今まさになぜか部室でハルヒと愉快な仲間たちとともにそれをしているわけだが、何故そのような状態 に至ったのかを説明するには今から数時間ほど遡らなければならない。 ______ 夏休み真っ盛りのその日、俺はそろそろ沈もうかという太陽の暑さを呪いながらニュースを見ていた。 東北の某都市ではいまごろ七夕祭りをするのだなあ、などといつかのことを思い出しながら今まさに瞼の 重量MAXに至らんとしたその時、携帯が盛大にダースベーダーの曲を奏でた。 ハルヒだ。 市販されているどのカフェイン飲料よりも効く恐怖の音色によって冴えた頭で出ようか出まいか一瞬迷った後、 恐る恐る携帯を手にした。 「あ、もしもし?キョン今暇?」 恐ろしく不躾な第一声、間違いなくハルヒである。 いーや、今まさに夏休みの課題に取り組もうと今年一番のやる気を出していたところだぜ。 マシンガンに対し襖の盾を構える様に、ささやかな抵抗を試みる。 「ちょうどいいわ、そんなのやめて駅前に集合!」 何が調度いいのだろう、などと問うのは風呂上りに鏡の前でポーズをとるよりも時間の無駄というもんだ。 相手はハルヒなのだから。 駅前に着くと、時をかける美少女こと朝比奈さんが小さく手を振って俺を迎えてくれた。 「あ、キョン君、こんばんは…!」 純白のワンピースに可愛らしいポーチ、なんという麗しのお姿、もしかしてあなた未来人じゃなくて 天使か何かなんじゃないですか? 「私突然呼ばれて…キョン君は何するか聞いていますか?」 あいつが突然じゃないことなんてないんですよ、朝比奈さん。 ついでに言うとあいつの頭の中に何か計画があるのかも怪しいもんだ。 「ヤッホー!」 話題の主が何故か胡散臭い笑顔と鉄仮面を引き連れてやってきた。 「いやあ、涼宮さんと長門さんと電車で一緒になったもので。」 お前には聞いてないけどな。夏休みの、しかもこんな暗くなるような時間から何しようってんだ、ハルヒ。 「うんうん、みんな行動が迅速でとても良いことだわ。SOS団の未来も明るいってものよ!」 聴いてないな。 「失礼ね、ちゃんと聴いてるわよ。これからみんなで百物語をやります!」 帰っていいか。 「夏といえば怖い話。怖い話といえば百物語。百物語といえば学校よ。そういうわけで今から部室に行って 納涼百物語大会を行います。」 朝比奈さんは既に怯える準備万端、古泉はいつもどおりのインチキ笑顔、長門は幽霊のように冷たい無表情でハルヒを見つめていた。 意外と長門は読書で得たネタがあるかもしれないなと考えそうになったが、つっこみ担当の脳内俺がそれを遮った。 ちょっと待て、こんな時間に学校に忍び込んだのが見付かれば、バニーガールの時よろしくまた何を言われるか… 「大丈夫、ちゃんと昼間のうちに部室の窓の鍵は開けておいたわ。窓から縄梯子を垂らして、蝋燭も用意しておいたから完璧よ。」 どこからそんなもんを調達…じゃない、つっこむべきはそこじゃない。 何が大丈夫なんだ、ハルヒ。こいつの思考がわかる奴がいたら「機関」とか言う変態組織から表彰されるかもな。 俺だったら、たとえ古泉に土下座されてもいらないが。 「いいんじゃないですか。怪談、僕は嫌いじゃありませんよ。幽霊というものにも少し興味があります。」 少しは躊躇しろ、このニヤケヅラ。 「ふぇ…幽霊…出るんですか、百物語ってなんなんですか…。」 今にも泣きそうな朝比奈さん。大丈夫です、あなたのことは俺が命に代えても守ります。 いつかのクラスメイトによる俺殺害未遂に比べれば幽霊なぞ。 「……」 メンバー中最も幽霊に近い存在のような気がする宇宙人製有機ヒューマノイドインターフェースは、 なにやら不気味な表紙の本を読むのに忙しいようだ。何読んでるんだ? 「……これ」 えーと、いながわじゅん…… !? やる気か、長門。 はあ、何も起きないでくれよ。もしものときは頼むぜ、長門。 ハルヒの場合、幽霊どころかヤマタノオロチを召喚するなんてことは十分あり得るからな…。 というわけで、俺たちは夜の学校に忍び込み、百物語に挑戦しているわけだ。 しかし、5人で100話、一人20話の割り当てだ。正直、俺はそんなに話すネタを持っていない。 どこかで聞いたような、しょうもないネタを披露するといった具合だ。 ある種のオカルトマニアのハルヒと、今まで読んだ本を積み上げると富士山すら凌駕するであろう長門は、 順番が来ると躊躇なく話し始める。長門の話はどちらかというと、都市伝説のような気がするのは、この際目を瞑ろう。 古泉は少し考えた後に無難な怪談を語っている。こいつのことだ、即興で考えた嘘話だろう。 朝比奈さんはというと、専ら悲鳴あげ係である。話せるネタもないようで、ハルヒか長門が代わりに話している。 何なんだこの2人は。 さて、そろそろ納涼百物語大会(命名:ハルヒ)も佳境である。 最後の100話目を俺が話そうとしたところ、ハルヒに権利を奪われた。 曰く、イベントのおいしい所は団長の物なんだそうだ。 俺にとってはおいしいかどころか、不味い役回りだったので有難い。蓼食う虫もびっくりだぜ。 「それじゃあ、最後の怪談、いくわよ。 皆、この1年5組の教室に実しやかに囁かれる噂を知ってるかしら。あの教室はね、いわくつきの教室なの。 あたし達が入学するよりもずっと前、一人の男子生徒の遺体が発見されたの、胸にコンバットナイフを突き刺されて。 特に恨みを買うようにも見えない、ごく普通の男子生徒だったらしいわ。その子が殺される前日、 ラブレターを貰ったと言って浮かれてたという証言もあって、事件との関連性を疑われたけど、遺留品からそんな手紙は見付からず、 結局犯人は分からずじまい。以来、あの教室に一人でいると何か悪いことが起こるらしいわ…。」 ……結末以外はなにやらどこかで聞いたことのあるような話である。こいつ実は全部知ってるんじゃないだろうな。 長門、あまりこっちを見るな。こういう状況でのお前の眼差しはナイフなんかよりよっぽど怖い。 朝比奈さんはもう完全にギブアップ、古泉は相変わらずニコニコしている。 俺と朝比奈さんの青ざめる様子に気付いたのか、ハルヒは満足げな顔で言った。 「あははは、うっそ。今のは完全なあたしの作り話。こうも良い反応をしてくれるとは思わなかったわ。 持つべきものはキョンとみくるちゃんよねえ。」 こいつ実は読心術もマスターしてるんじゃないだろうか。 「じゃあ、消すわよ。」 そういって最後の蝋燭を吹き消した。 …暗闇 朝比奈さんの「ふえぇぇ」という舌足らずな悲鳴が聞こえたかと思った次の瞬間、蛍光灯が瞬き始めた。 誰が点けたんだ。そう思って部室の入り口に目を向ける。俺にとって、ハルヒとは別の意味で生涯忘れないであろう顔がそこにあった。 ……朝倉涼子? 何なんだ?訳がわからない。なんで復活してるんだ?一人を除いて目を丸くして入り口を凝視している。 驚く朝比奈さんも実に愛らしい、写真に撮って起きたい気分だが、今はそれどころではない。 どうでもいいが少しは驚けよ、長門。 「あんた…カナダは?」 ハルヒが訳のわからない質問をしている。 「何のこと?あなた達こんな時間に学校で何してるの?」 それはこっちの台詞だ。何しに出てきた。学校の警備員のバイトでも始めたのか、働き者だな。 瞬間、長門が何か呟いた。よく聞こえなかったが、例の「呪文」って奴だ。同時に明かりが消え、再び点いたときには入り口には誰もいなくなっていた。 なんだ?何をしたんだ、長門? 「何…今の?」 ハルヒが驚き半分、興味半分の器用な顔で声をあげる。あれはいったい何なのか、それは俺が知りたい。 朝比奈さんはもはや放心状態、古泉は胡散臭い笑顔に戻っている。 長門は勿論表情を変えていないが、一言 「……幻覚」 とだけ言った。いくらハルヒをごまかすためとはいえ、それはないだろ長門。 「幻覚…?みんなも見たでしょ?」 「…見ていない」 長門が無茶な否定を始めたが、他にどうしようもないので俺も続いて首を横に振った。 「ん~、おっかしいなあ。確かにそこに朝倉涼子が……まあいいわ。考えてもわかんないし。今日はそれなりに面白かったし。 終わりにしましょ。」 こんなフェルマーの最終定理の証明よりも意味のわからない説明で納得してくれるんですか、ハルヒさん。 お前が、大雑把な奴で良かったよ。 帰りの道中、俺は長門へ説明を求めた。さすがの俺もあれでは納得がいかない。古泉も興味があるようで、 話に勝手にまざってきた。あっちでハルヒの話し相手でもしてろよ。 「残念ながら、涼宮さんは朝比奈さんと話すのに忙しいようですのでね。」 見ると、ハルヒが朝比奈さんへまだ怪談を語っている。もう、いつでも失神する準備万端な朝比奈さんは 半分ハルヒに引っ張られて歩いている。すみません…朝比奈さん。 「…ノイズ」 長門がいきなり蚊の鳴くような声で説明を始めた。 例によってさっぱり意味がわからなかったが、古泉によるとこういうことらしい。 長門は朝倉涼子の情報連結を解除したが、それは朝倉涼子のデフォルトの状態を消去したのであって、 朝倉涼子が長門のあずかり知らない所で得た経験値までは対象となっていなかったらしい。 つまり、1年5組委員長としての朝倉涼子の情報はいまだ学校を彷徨っていて、ハルヒの願いに呼応して現れ、 今さっき長門が、消去したというわけだ。 なあ、それって所謂幽霊じゃないか? 「…そう、通俗的な用語を使用するならば、そういうことになる。」 …笑えない、何故か笑っている古泉の顔をひっぱたきたい気分だぜ。 「遠慮しておきましょう。僕にそういう趣味はありませんから。あ、そうそう、もう電車もないでしょうから帰りのタクシー代は 僕が出しますよ。面白いものを見せてもらったお礼です。」 なにやら、どこかで見たことのあるタクシーを呼び止めて古泉は言った。 「さすが副団長ね。キョンにも見習って欲しいわ。」 真夜中なのにこいつの元気は底なしだな…。朝比奈さんはハルヒを自分の家に招待しようと必至に懇願している。 一人で寝るのが怖いんだろう。俺を誘ってくれれば、インチキパワーを発揮した長門の如きすばやい動きで挙手をして、 二つ返事で引き受けるというのに。 さて、俺も今日はもう眠い。少しばかり癪だが、古泉の好意に甘えてとっとと家に帰って寝よう…電気を点けて。 END
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「・・・・・・・・・・なんでよ?あたしのこと嫌いなの?」 ハルヒが泣いている・・・・いつもの笑顔からは想像も出来ない泣き顔 俺はハルヒを悲しませてしまったのか、あの太陽のような笑顔を守ってやれないのか 「そんなことない!好きだ!・・・・でも今は・・・・・・」 俺がハルヒと付き合い始めてから早1ヶ月。変わったことと言えば毎日一緒に登校してるってことと、日曜日の勉強会が午前になって午後からはデートになったってことぐらいだ ・・・・・・そうそう、どうでもいいことかもしれんが俺にはうれしい変化がもう1つあった。ハルヒのポニーテール仕様率の異常なまでの上昇だ。髪をバッサリ切ってしまう前のポニーの長さには到底届かない、言うなればチョンマゲのようなポニーだが、そこがまた可愛い!抱きしめたくなる衝動に駆られるね、正直言って・・・・・・・俺って変態だな 「・・・・・・・って有希は言うんだけど、みくるちゃんはね・・・・・ってあんた聞いてるの?」 「ん?あぁ聞いてるぞ。で朝比奈さんは何て言ったんだ?」 「なんだ、聞いてたんだ。間抜けな顔してたから回想にでも浸ってたのかと思ったわ」 するどいな・・・・・やっぱり心が読めるんじゃないか? 「なんだかんだ言ってもキョンはあたしの話を聞いててくれるから大好きよ!」 コラ!登校中にそんな大声で「大好き」発言するんじゃありません・・・・・・はぁ、周りの目が痛いぞ 「別にいいじゃない、付き合ってることなんて皆知ってるんだから」 ハルヒのとんでもパワーは今でも健在。古泉の機関の推測である、俺と付き合えば力も消えるってのは大外れで長門曰く増大したそうだ。その証拠がこの「皆知ってるんだから」である 話は遡ること1ヶ月前・・・・・・ 「よう!キョン・・・・・お、嫁も一緒か」 空気の読めない男No.1(俺予想)の谷口・・・・・うわぁ、ハルヒがトマトだ 「だだだだだだだ誰が誰の嫁よ!ぶっ殺すわよ」 言ってることは連続殺人鬼並なのに顔がニヤケてますよ 「いて!蹴るこたぁないだろ・・・・・だって付き合ってるんだろ?」 「あれ?谷口。お前、何でそのこと知ってるんだ?俺は誰にも言ってないぞ?・・・・・・ってまさかハルヒ、皆に言いふらしたのか?」 「そんな非人道的なことあたしがすると思う?」 いや、朝比奈さんに強制わいせつしてるが、あれは人道的行為なのか?他にも挙げたらキリがねぇ 「何ブツブツ言ってるのよ!とにかくあたしは、言いふらしたりなんかしてないわ」 「だよな・・・・スマン、ハルヒ。疑ったりして」 「べ、別にあんたが謝る必要なんてないわよ・・・・あたしを好きでいてくれればそれで・・・・」 「・・・・・・・・・・ハルヒ」 「・・・・・・・・・・えぇっと・・・・・・・・俺、先行っていいか?」 谷口は相当イライラしてるみたいなんだが・・・・・正直スマンかった 「いや待て。誰から聞いたんだ?その付き合ってること」 「・・・・・・ん?そういえばそうだな。特定の誰かから聞いたって訳でもねぇし」 「はぁ?誰からも聞いてないのに知ってる?なんじゃそりゃ」 「いやぁ、俺も不思議なんだが自然とそう思ってたよ」 「不思議?!」 あぁ、ハルヒの目が輝いてる・・・・谷口、ご愁傷様 「ちょっと谷口!その話詳しく聞かせなさいよ」 谷口はネクタイを掴まれて・・・・カツアゲされてるみたいで可哀想で助けてやりたいのは山々なんだが確認しとかないとかけないことも出来たしな 「ハルヒ、先行くぞ」 ・・・・・・不思議となれば俺の言葉も耳に入らないのか?まぁ先行くか 「・・・・・ふんふん、なるほどね。キョンはどう思う?ってあれ、キョンは?」 「先行ったみたいだぞ」 「何で言わないのよ!この役立たず!」 「いてー!蹴るなよ・・・・・殴るのもなしだって」 「長門、いるかー」 「・・・・・・・・・・・・・・・何?」 なんか朝は三点リーダーが多いな・・・・・長門も朝は苦手なのかな? しかし、こんな朝早くから団室にいるなんて、流石長門だな 「ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・いい」 やっぱり機嫌悪くないか?昼休みでもいいんだが・・・・ 「・・・・・・・・・怒ってなどいない・・・・・・・・・早く話して」 やっぱり怒ってねぇ?微妙に目が恐いんだが・・・・・ 「そのことについては情報統合思念体も把握している。涼宮ハルヒの力によるもの」 まぁ、想像はしていたが・・・・・で、何でそうなったんだ 「情報統思念体の見解によると、涼宮ハルヒはあなたと恋愛関係にあることを世間に知られることで、あなたを他の女に取られることを防止したと思われる」 「なるほどね・・・・そんな可愛い一面もあるんだな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ・・・・恐いから睨まないでください 「で、なんでそのことを俺に教えてくれなかったんだ?」 「現実、事実を捻じ曲げた情報の書き換えはなく、また時間が経てば現状と同状態になると予測されたため」 「なるほどな・・・・納得したよ。ありがとよ」 「・・・・・・いい」 「・・・・・・でね、そしたら今度は有希が・・・・・って聞いてる?」 「聞いてるって、長門がなんだって?」 「フフフ・・・・・・やっぱりキョンはキョンね」 「どういう意味だ、それ?」 「そのまんまの意味よ!」 ・・・・・・・・わけわからんぞ、それ 俺とハルヒのラブラブっぷりは自分で言うの変だが常軌を逸している そのことが顕著に現れるのは授業中と団活中、それにデート中だ 「・・・・・・・・・」 授業中はずっと後ろから視線を感じる。まぁ後ろからって時点で視線の元はハルヒで間違いないんだが・・・・・それにしてもこの席順、変わらないな 「・・・・・・・・・何見てんだ?」 「キョンの背中って案外大きいのね。頼りになりそうね」 「そうかい、そりゃぁどうも」 授業中だというのに、こんな惚気た会話をしてて、よく自分が恥ずかしくないよな しかし、この学校の教師はどうなってるんだ?これだけハルヒとお喋りしてるっていうのに注意の一つもしてこやしない ・・・・・・もしかして、またトンデモパワーで「ラブラブ遮蔽シールド」とか張ってるんじゃないだろうな・・・・・いや、ハルヒならやりかねん まぁこのくらいは許せる範囲なんだが、やっかいなのが団活中だ 授業中にいちゃいちゃ出来ないのが不満なのか放課後の団活ではその不満を爆発させる 「ねぇ~キョン~・・・・キョン~・・・・・・」 だー!耳元でそんな甘い声で囁くな!!理性よ頑張れ!! 指定席だったデスクトップの置いてある団長席は今はただのパソコン台に成り下がり、ハルヒは俺の隣に座って、俺を弄ったり古泉とのボードゲームを観戦したり俺を弄ったり雑誌を読んだり俺を弄ったりノートパソコンでネットの世界にダイブしたり俺を弄ったり俺を弄ったり・・・・ つまり何だ・・・・・俺の理性を崩壊させたいだけなのかもしれん。こいつの悪戯心にはまいるよ。こんなこと毎日されてたら理性なんてあったもんじゃないぞ まぁデートの様子なんて実況しなくてもわかるだろうし、実況なんてしたくもねぇ いわゆる唯のバカップルってことだ そんなハルヒもバカップルっぷりを唯一振舞わないのが土曜、つまり今日の不思議探索のときだ クジでの組み合わせ決めで、俺はてっきり毎回ハルヒと2人きりになるとばかり思っていたんだがそうではないらしい。きちんと確率論に則った結果が毎回提示される ここぞとばかりにハルヒパワーじゃないのか?こういうところで力を発揮して欲しいね 「大丈夫。わたしがさせない」 ・・・・・・・・・・長門?! ・・・・・・・・・偶然だよな? 偶然なのかハルヒパワーなのか情報操作なのか規定事項かはしらんが今日の午前のペアはハルヒとだった。でも何かが違った。しいていうなら風邪をひいたハルヒってところか?いつもの猪突猛進さがないというか「キョンとね!じゃぁ行くわよ!」と言って手でも引っ張っていくと思ったんだが・・・・・そういえば付き合い始めてからはペアになるの初めてだな なんだかしおらしいハルヒをつれて街中をぶらぶら・・・・傍から見ればただのデートなんだが、いつのまにか例の川沿いを歩いていた なんかハルヒも元気がないことだしベンチで一休みするか 「なぁ・・・・今日のお前、元気がないな」 「そ、そんなことないわよ!いつも通りよ」 「・・・・・・・・そうか、ならいいが」 「・・・・・・・・・ねぇ、キョン。あたし達って付き合い始めてから1ヵ月経ったわよね?」 「ん?あぁそうだな」 「キスもたくさんしたわよね?」 「・・・・・まぁ・・・・・・・・・・したな」 「あたしのこと愛してる?」 「そりゃぁ勿論愛してるぞ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう」 何が言いたいんだ?やっぱり何処か変だ。少しどころではない。大分おかしい 「キョン・・・・・探索が終ったら家に来て」 「家って・・・・・・・ハルヒの家か?」 「うん」 「そうか・・・・・・・・わかった、行くよ」 「ありがとう・・・・・もう時間ね。皆の所に戻るわよ」 おかしい。おかしいことに間違いはないのだが・・・・・それにしても直接家に呼び出すなんて、よっぽど大事な話があるに違いない・・・・・・・別れ話なんて勘弁だぜ? 「さて、涼宮さんがいなくなりましたので・・・・・大事な話があります」 「お前の、その「大事な話」とやらはどうせ俺を巻き込む事態なんだろ?」 「何故そう思われるのですか?」 「この面子で話し合うことなんざ、どうせ俺が疲れる仕組みになってるに違いない」 「まぁとりあえず話だけでも・・・・」 午前のおかしなハルヒは朝比奈さんを引き連れて午後もおかしなまま2人で人ごみへと消えていった。つまり俺のペアは長門に古泉だ 俺たちはいつもの喫茶店の前で別れる振りをして再度入店した。なんでもこの店は機関のものらしく、聞かれたくない話を存分に出来るらしい。 「端的に申し上げますと、今朝のペア決めで凉宮さんとあなたがペアになられたとき閉鎖空間が発生しました」 なんだと?閉鎖空間ってあの閉鎖空間か?ハルヒがストレスを感じてたってことか? 「いえ、今回はそのような理由ではなく、また通常の閉鎖空間ではないようです。僕は機関からの報告を受けただけで実際に見ていないので詳しいことは分からないのですが、閉鎖空間内を覗ける長門さんに、ここは説明を任せます」 「了解した」 長門はそんなことも出来たのか・・・ 「通常の閉鎖空間と違う点は2つ。1つは空間範囲の狭さと拡大する気配がないこと。2つめは神人の活発な活動が認められない」 あの神人が活発に破壊活動をしていない?想像も出来んな・・・ 「神人は出現してから約3時間の間、ただうずくまって座っているだけ。破壊活動もしなければ身動きすらしない」 「そんな神人が出たのか・・・で機関はどうするんだ?」 「えぇ、そのことなのですが・・・・触らぬ神に祟りなしとも言います。しかし放っておけば何時までも閉鎖空間は消えませんし、何時拡大を始めるかもわかりません」 「そうか・・・・・・で俺はどうすればいいんだ?」 「そうですね・・・・なにか涼宮さんについて変わったこととかはありませんでしたか?」 「変わったところと言えば・・・・・どこか元気がなかったぞ」 「元気がない・・・・落ち込んでいるのでしょうか?」 「そのような感情の観測はなされていない・・・・言うなれば・・・不安になってる?」 不安?ハルヒが・・・本当か、それ 「宇宙人、嘘つかな~い」 長門・・・・キャラ変わってるぞ 「さて、これからどうしましょうか。僕としては探索が終ってからでも充分対策がとれると思うのですが・・・・どうです、長門さん」 「問題ない。探索終了後わたしのマンションで検討会を実施する」 そうかい。頑張ってくれよ 「何を言っているのですか。もちろんあなたにも参加してもらいますよ」 いや、俺はちょっと用事が・・・・ 「世界とその用事とどちらが大事なのですか?」 そりゃぁハルヒも大事だが世界が終ってしまえば元も子もないか・・・・ 「わかったよ」 「わかっていただけてよかったです。では探索終了後、1度別れる振りをして長門さんのマンションに集合ということで」 「はいよ」 「了解した」 「では探索に参りましょうか」 「今日の探索は終了!解散!」 ハルヒの一声で今日の探索とは名ばかりの活動も終了し俺も帰宅する振りを 「さ、行くわよ」 そうでした。呼び出し喰らっていましたね しかし古泉にも言われたとおり世界のほうが優先されるべきなんだろうな・・・・世界崩壊の原因が目の前にいるとは 「あぁ、そのことなんだが。スマン、実は用事があってな」 「・・・・・・なによ、あたしより優先すべきことなの?」 「まぁそういうことだ」 「その優先することってなんなのよ!」 しまったな、言い訳を考えてなかった。まさか本当のことを言うわけにもいかないし、かと言ってハルヒに俺の考えた嘘が通じるとも思えないし・・・・・ 「黙り込んじゃって、ますます怪しいわ」 しょうがない。本当のことを全部言うわけにはいかんが・・・・ 「実は長門の家に呼ばれてるんだ」 「・・・・・え、有希?」 「・・・・・・・なんであたしより有希なのよ」 え?俺の目の錯覚か・・・・ハルヒの大きな目から1滴、2滴と大粒の涙が滴り落ちてゆく 「あたしより有希なの?・・・・・・・・あたしのこと嫌いになっちゃったの?」 「違う!そんなんじゃない・・・・・ハルヒのことは好きだ!」 「そんなの嘘よ!もういい!!」 そう吐き捨てたハルヒは走っていってしまった。こんなの常識的に考えて追いかけるだろ?世界なんて二の次だ 「みっみっミラクル~み~くルンルン!」 「発信者:古泉一樹(グループ:SOS団)」 そう俺の携帯のディスプレイが表示している。いいタイミングだな 「・・はぁ・・・・はぁ・・・・・古泉か?」 「ええ。緊急事態です。閉鎖空間が急速に拡大し始めました」 まぁそうだろうな・・・・・あんなにハルヒが怒って泣いていたんだ 「はぁ・・はぁ・・・・・そうか・・・・・はぁ・・・・悪いが俺は行けそうにない・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・理由は・・・・・・・・・・後で」 「なんとなく状況は察しました。世界崩壊の危機を脱っすることが出来ましたらそのとき・・・では」 話のわかる仲間を持つと助かるぜ 「・・・・・・なんであたしの部屋に入ってきてるのよ」 「おまえが来いって言ったんだろ?」 ・・・・なんてのは嘘で夢中で追いかけてたらハルヒの部屋まで来ちまった 「だってあんたは有希のところに行くんでしょ!」 「いや違うそれは・・・・」 「それは何よ!だいたいあんたはいっつも有希やみくるちゃんばっか見てデレデレしちゃって、あたしのことなんてちっとも見てないじゃない」 「なに言ってるんだ!俺はしっかりお前のこと見てるぞ!」 「・・・・・・そんなの嘘よキョンはあたしのことを見守っててはくれないわ」 「いいや、嘘じゃねぇ!お前のことを守って見せる」 「そんな約束いつまで続くかなんてわからないじゃない!」 「約束する。いつまでもおまえのこと見守っててやる!」 「・・・・・・?!ちょっとキョン、それって」 「俺は世界とハルヒを天秤に掛けてもハルヒをとる!何があってもハルヒを守ってみせる!」 「・・・・・・・・・・本当」 「あぁ、本当だ」 「・・・・・・・・まぁいいわ。今回は信じてあげる」 はぁ、よかった・・・・ってそういえば古泉たちは大丈夫なのだろうか 本当にハルヒの方の天秤をとったわけなんだが・・・・ 「・・・・・・ねぇ、キョン。知ってる?」 何がだ? 「今ね、この家にいるのキョンとあたしだけなのよ?」 そ、それは拙くないか?男と女が二人っきり・・・・・ 「別に拙くなんかないわよ。あんたさっき自分で言ったこと忘れたの?」 さっき言ったこと・・・・なんのことだ? 「はぁ?あんた覚えてないの?あたしを一生・・・・・・まぁいいわ、キョンはやっぱりキョンね」 ・・・・・・・・なんのこっちゃ 「ここは再構築世界とかじゃないよな?」 「えぇ、おそらくは・・・・ですよね?長門さん」 「そう」 ハルヒを泣かしてしまうという事件もようやく一段落ついたその日の深夜、ようやく長門のマンションに来れた。本当はもっと早く来るつもりだったんだが、泣き疲れたハルヒは俺を抱きかかえたまま寝てしまった 別に腕の中から逃げてこられなくはなかったんだが・・・・・気持ちよさそうな顔だったから、つい見とれていこの時間だ 「・・・・・・・・可愛い寝顔だな」 「!?・・・・・Zzz・・・・」 あぁ、こいつ起きてやがる・・・・顔が真っ赤だ 「お前、起きてるだろ」 「・・・・・なんでわかったのよ」 「そりゃぁいつでも見守ってるからな」 「・・・・・・・・キョン」 「そういやぁ親はどうしたんだ?」 「・・・・・あんた雰囲気ってものを知らないの?」 「なんのことだ?」 「はぁ・・・・・・親は親戚の結婚式に行って夜まで帰らな・・・・ってもうこんな時間じゃない!何で起こさないのよ!!」 「可愛い寝顔だったからつい・・・・」 「バカこといってる場合じゃないわよ、本当に帰ってきちゃう。キョン、早く帰る支度して!」 別に「あたしの彼氏よ」とか紹介されてもいいんだが・・・・ 「バカいってないでさっさと帰る!!」 ってな具合に家を追い出されてしまった 「そうか・・・・じゃぁ、今回の種明かしをしてもらおうか」 「種明かし・・・・ですか。結論から言いますと、男には女の気持ちはわからない・・・・でしょうか」 全然結論になってないぞ、古泉。ちゃんと説明しろよ 「僕も男ですし、今回の騒動は長門さんにご説明をお願いいたします」 「了解した」 長門って、その台詞多いな・・・・・ 「凉宮ハルヒが不安になっていな要素はたった1つ。あなたとの関係」 「俺との関係?」 「凉宮ハルヒがあなたにしようとした行為によってあなたとの関係が壊れることを危惧し、その葛藤の中で例の閉鎖空間を発生させた模様」 行為?行為ってなんだ? 「・・・・鈍感」 「いやぁ、あなたがそこまで鈍感とは」 「・・・・・わるかったな」 ハルヒが俺としようとしたことぐらい俺にだってわかるさ。付き合って1ヶ月、キスも充分した、愛してる。でも気づくのが遅かったな。スマン、ハルヒ。やっぱり女の考えてることは男には到底わからないものなのさ・・・・・でもちゃんとわかるように努力はするよ 「・・・・な、なによ!じろじろ見て」 「いいや、別に。俺はただお前を見守ってるだけだ」 「・・・・・・・あんた、よくそんな恥ずかしい台詞が言えるわね」 お互い様だろ 「そんなに見られてたら答え合わせに集中できないじゃない!」 今日は土曜探索の翌日、日曜日だ。予定通り午前中はハルヒと勉強会中・・・・と言っても、もう終るんだがな 「・・・・うん、よし。今日はこれでおしまいね。お疲れ様」 「お疲れ、ハルヒ。いつもありがとな・・・・・午後はどこにデートに行きたい?」 「・・・・・あたしの家に来ない?」 ・・・・・・親に紹介でもするのか? 「んとね・・・今日も家に誰もいないのよ」 「それってまさか・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ」 good end… 「いやぁ今回は出番が結構ありましたね」 「いっぱい喋った。ユッキーがんばった」 「あのー・・・・・わたしは?」 作者「空気乙wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 「貴様、【禁則事項】で【禁則事項】して【禁則事項】するぞ!」 作者「アッー!!」 bad end…
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放課後部室で俺と古泉がオセロをし、長門が窓際で読書、 朝比奈さんがお茶の用意をしていると俺より先に教室を出たはずのハルヒが ドアから勢い良く登場した。そのままズカズカと入り込んで団長席に腰掛けると、 ぐるっと椅子を回して古泉に視線を向けた。 ハルヒの表情は新しい獲物を見つけたようにギラギラと輝いている。 あー嫌な予感がする。 「ねぇ古泉くん、土曜日川岸近くの遊歩道で一緒に歩いてた子って誰? 手繋いでたみたいだったけど、ひょっとして彼女?」 土曜日っていうと俺が古泉に頼まれて彼方此方振り回されてた日だな。 女になってショッピングしたり、昼飯食べたり、 狙撃されて逃げ回ったりと散々な目に遭った。 遊歩道ではクレープを食ったりしたな。食べ終わる前に襲撃されて、 古泉が慌てて俺の手を掴んで――ってソレ俺じゃねーか! 「御覧になっていたのですか」 少し驚いた顔をしてハルヒを見る古泉。 そりゃそうだな。俺達が狙われる原因であるハルヒが傍にいたんだから。 ん、待てよ。連中はもしかしてハルヒがいたから古泉を狙ったのか? 「ちらっと見かけただけよ。 なんか急いでるみたいで、すぐ二人ともいなくなっちゃったから。 で、どうなの? もしかして彼女って北高の生徒だったりしない?」 ハルヒも女の子らしく恋バナが好きなんだな。少し意外だ。 恋愛は精神病の一種なんて言ってたくせに、他人の恋愛には興味あるのか。 古泉はこのルックスだし、浮いた話が1つや2つあってもおかしくはないが。 「彼女はこの学校の転校生になるはずだった生徒です。 制服も購入して先日から学校に来る予定でしたが、 不幸にも地方に住んでおられるご両親が体調を崩されてしまい、 通学が困難となってしまった為に決まっていた入学を取り消されたのです」 は? 突然何言い出すんだコイツ。 それは対ハルヒ用に用意していたシナリオなのか。随分と用意がいい事だな。 「それは可哀想ね。でもその子に兄弟とか親戚はいないの?」 ハルヒが食いついてきたのをいい事に、演技がかった仕草で古泉は話を続ける。 「彼女は年の離れた妹さんがいらっしゃるそうです。 親戚の方々は相次いで亡くなられておりまして、 両親と妹さんの面倒を見るのは彼女しかいないのです」 ふぅと肩を落として落胆の意を魅せるところまで完璧だ。 釣られたハルヒは友達のように心配した表情を見せる。 「じゃあその子はお世話をするために転入を諦めたってこと? なんだか理不尽な気もするけど仕方ないわね。 でもなんで土曜日は一緒にいたの? ってか古泉君とどんな関係?」 それは俺も聞きたい。 「ちょっとした昔馴染みですよ。なにぶん急な出来事だったので 荷物やら全部こちらに置きっぱなしのままだったそうで、 土曜日に引越し手続きをするために戻ってきてたんです。 あの時は久々の再会でしたから昔語りをしながら散歩をしてたんですよ」 昔馴染みねぇ。彼女って言われるのは御免被りたいが ちょっとだけ残念だと思うのは俺の気のせいだな。うんそうだな。 「ふ~ん、それにしても可愛い子だったわね。 そうそう、ポニーテールがすっごく似合ってた」 そのポニーテールは古泉がやったんだ。 髪が邪魔だったからまとめてくれって言ったら 僕が好きな髪型にしますね、なんて言い出して。 俺もポニーテールは大好きだが、自分がやるとは思わなかったよ。 「彼女が聞いたらきっと喜ぶと思いますよ。 今度会う機会があれば伝えておきましょう」 今度どころか今聞いてるだがな。 何故か古泉は何のサインか知らんが俺にウィンクを投げてくるし。 だからその気色悪いのはやめろ! 男にやられても嬉しくねぇよ。 下校時刻になり、俺は古泉と2人で帰っていた。 ハルヒ達は駅前に先日開店したケーキ屋に行っている。 なんでも3人1組まで食べ放題らしい。 食欲魔人の長門とハルヒにはうってつけの話だな。 隣りを歩いている古泉はいつもより5割増しの爽やかスマイルだ。 「機嫌よさそうだな」 「そうですか? ふふ、そうかもしれません。 僕とあなたが恋人同士に見えたんですから」 ハルヒの話か。その時はお互いそれどころじゃなかったがな。 ん? 俺と恋人同士に見られて何で嬉しいんだ? だって、お前は俺が男だって知ってるだろ? 「ええ勿論知ってます。けど、今回ばかりは涼宮さんに感謝していますよ」 なんだそりゃ、俺はさっさと普通の生活に戻りたいね。 湯船から出たら冷水を浴びるのが習慣化してるし、 お湯に対して異様に警戒するようになっちまった。 ハルヒが望んだからこんな事になっちまった訳だが、一体何時まで続くんだろうね。 「さぁそこまでは。それより」 この手は何だね、古泉くん。 「握手してくれませんか?」 古泉が手を差し伸べてきた。何で今更握手なんだよ。 しかも俺は女の子よりお前と手を繋いでいる回数のほうが明らかに多い気がするぞ。 まぁ、握手くらいならしてやるけどさ。 「うお!?」 手を握ったと思ったら、今度は手をに引かれて 奴の胸の中へと無理やりダイブさせられた。 おいおい握手だけじゃなかったのか。 しかもこの体勢は図らずもあのデートの日と同じ状況ではないか。 あの時と違うのは俺が女の姿ではなく、生来の男の姿であることだけだな。 「古泉?」 台詞まで同じだよ。お前は最近突発的行動が多過ぎやしないか? 「やっぱり抱き心地が違いますね」 そりゃそうだろう。ガキの頃なら大差がないだろうが、 齢16になれば男女の体つきは大分違う。 同じって言われたら別の意味で泣くぞ。 「でも、同じ匂いがします。それにとても暖かい」 ぎゅっと腕に力が入る。古泉は俺よりほんの少しだけ冷たい気がした。 奴に抱き締められるのは嫌ではないが、 ここは往来なので誰かに見られるのではないかと気が気でない。 ホモカップルとして北高に噂が広がるのだけは何としても阻止すべきだろ。 俺が己の安泰な高校生活を送る為に無言で奴のブレザーを引っ張って抗議するが、 哀しいかな古泉は俺の意図を読んではくれなかったらしい。 それどころか俺の肩に頭を乗せると、耳元で 「僕は男性のあなたが好きなんでしょうか? それとも、女性のあなたが好きなんでしょうか。 わからないんです、2人のあなたのどちらが・・・」 と悩ましげに呟くと、古泉はいっそう強く抱きしめた。 息遣いや心臓の音がはっきりと聞こえる。 古泉の手が震えていることだって伝わっている。 俺は何て答えてやればいいのか分からないまま、されるがままに突っ立っていた。 ただ、そうだな。 古泉が答えを見つけるまでは、ハルヒの気が変わらなければいいと思った。 それまでに、俺もこの気持ちに対する答えを見つけておこう。 終
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「ねえあんたたちっ! みゆきちゃん見なかった!? こっちの方に飛んできたはずなんだけど……」 「いや知らんが、ハルヒよ。あんまり着物姿で走り回らないほうがいいと思うぞ。折角鶴屋さんの家の人から綺麗に着付けて貰ってるんだ。着物だって借り物なんだし、鬼ごっこが出来る程ここが広大だからといって早速始めちゃダメだろ」 「そんなのやるわけないでしょ! みゆきちゃん、着替え中に髪留めを取るのを渋って逃げちゃったのよ。どこ行ったのかしら……」 桃色の振袖を着飾るハルヒは、八重桜の下で座ってでもいればこれ以上ないほどの美麗な風貌を見せているのだが……やはりと言うべきか、こいつは裾をまくって鶴屋さん宅の廊下を跳ね回っている。 「涼宮さんらしくて良いではありませんか。ああやって快活な姿を見せていてくれるほうが、こちらとしても心が安らぎます。それに……」 古泉は俺に笑顔を向けると、 「異世界の問題も、無事に解決したことですしね」 ……現在、俺たちは鶴屋さん宅での俳句大会を終えて、どうせなら八重桜を背景にみんなで記念写真を撮っておこうというハルヒの提案と鶴屋さんの同意によって始まった女性陣の和装への着替えを、男性陣が待つという形になっている。 つまり今はゴールデンウィーク真っ最中であり、こうやって俺たちが平穏無事に今日を過ごせているのは、当たり前なことだが世界がちゃんと正気を保っているからだ それは俺たちの行動によって異世界の問題がちゃんと解消されているからに他ならないが、それについて語る前にまず、俺が今日ここに来て知った二つの驚きの事実について話しておこう。 一つ目は、鶴屋家の秘密の蔵に壊れた亀型TPDDが保管されていたことだ。 それを見せられて驚きを隠せない俺と古泉を見ながら、ニヤニヤを隠せない上級生はこう言った。 「いやーごめんねっ! あたし実は知ってたんだ、みくると有希っ子の正体っ。あたしが中一のときだったかな? これがいきなり空からうちの庭に降ってきてさ、中から、みくると大人っぽい有希っ子が出てきたんだよ? あたしは宇宙人もなんも信じてなかったんだけど、流石にあの登場で自己紹介をされちゃった日にゃあ、いくら鶴にゃんでも信じざるをえないねっ! あやや、あのときはたまげたっ」 「……じゃあ鶴屋さんは、かなり前からその事実を知ってたんですね?」 「ま、そういうことになるかなっ。まこと申しわけないっ。んで、そこで二人から事情を聞いてさ、正体どころか今日までの話をあらかた聞かされてたんだっ。いやあ、無事に世界が続いてくれて良かったにょろ! こうなったってことは、キョンくんはあたしの質問に答えを出したってことだよね。宇宙人と未来人、どっちを選ぶかって話っ」 「ええ。そうなるんでしょうね」 あとで気付いたのだが、恐らくこの人は、その問題を俺に投げかけることによって自分にとって大事な人は誰かということを考えさせたかったのだ。素直じゃない俺を上手く手玉にとった、なんともひねくれた問題である。流石は鶴屋さんだと言わざるを得ない。 「にゃはは。結局キョンくんが選んだのはハルにゃんだったってことだよねっ。ラブレター見たよ、あっついあつい! 触ったらこっちまで火傷しそうさ!」 何故あの手紙の存在を知っているのかについては後回しにしておく。 「それにさ、驚いたって言えばまだまだあるんだ。二人が墜落して出てきたときなんだけど、どうやらみくるが操縦ミスしちゃったっぽくって、大人の有希っ子はそれはもう鬼のようにみくるを叱ってたにょろ! もうみくるは半泣きで、しかも大切な部品が別の時代に落ちちゃってさあ大変! そして、それを見ちゃったあたしに二人が協力を求めてきたってわけさ。ほんと、高校に入ってから二人に再会して、みくるはドジッ娘のまんまだったけど、有希っ子のあまりの大人しさには我が目を疑っちゃったよ! まるで別人さっ」 ああ、通りで最近長門と仲良くなってきた朝比奈さんが、大人になるとまた長門を恐れてしまっていたわけだ。それに、未来の長門はそんなに饒舌なのだろうか? 俺のイマジネーション能力では皆目見当もつかないので、是非一度見てみたい気がする。そして、そのときに紛失した部品があの金属棒だったってわけだな。 続く二つ目の事実なのだが、それは谷口と周防九曜が知り合いであり、しかもクリスマス前に谷口が付き合ったと言っていた相手が、なんとこの周防九曜だったという話だ。 また、谷口は人違いだったというおマヌケな理由で振られちまったんだそうな。 まさか周防九曜は俺と谷口を間違えたなんて言うんじゃなかろうなと思いきや残念ながらそうだったため、谷口のどこが俺に似ているんだと当然の抗議を申し立てたとき、古泉は「いえ、お二人には実に良く似た部分がおありですよ。だから中学生の涼宮さんも………と、これは秘密です」などと、どうやら谷口もハルヒに告白をしていたということを匂わせるような発言をした。ま、別に聞かなくてもいいことさ。 と、ここでも一つ疑問が生じたと思うので説明しておく。 今回の鶴屋家主催花見俳句大会、実は参加者がSOS団以外にも佐々木たちや俺の妹、そしてミヨキチやハカセ君に至るまでSOS団関係者のほぼ全員が集合してしまっているという様相を呈しているのだ。 谷口と周防九曜が運悪く鉢合わせたことやこのイベントの参加者がこれだけの数に肥大化したことにも驚きを隠せないが、それを容易に許容できる鶴屋家の敷地面積と二つの意味での懐の深さにもあらためて一驚を禁じ得ない。 まあ、ここにやってくる繋がりとして他のメンバーはなんとなく分かるとして、佐々木たちがここに参加しているのは、会誌を仕上げた土曜日の次の日、世界の運命を分ける日であった日曜日にSOS団と鉢合わせたからだ。異世界の問題については、ここから説明を始めよう。 異世界ではそこでハルヒが俺たちの正体に気付いたことによって、みんなの記憶が失われてしまった。 しかしそれは今回の詩集、SOS団の面々が自分自身を題材にしたポエムを朝比奈みゆきが異世界にもたらしたことがキッカケとなって異世界は正気を取り戻した。 そうやって全てを知った異世界の俺たちは、こちらの世界に同期する道を選んだと聞いている。 その選択はSOS団団員のみんなが全てを団長に一任して導き出されたものらしい。 つまり異世界の俺たちはハルヒに全てを打ち明け、その上で、分裂した世界のこれからをどうするのかハルヒ自身の意思に委ねたというわけだ。 そしてあいつはこちらの世界を選び、分かたれた世界を一つにした。 俺には、どうしてハルヒがその選択をしたのかわかる。 非日常が日常になり、その身に過ぎた力があるのを知ってしまったとき……ハルヒはなんと答えるのか。 ――SOS団。涼宮ハルヒと俺たちの冒険は、本当が嘘になる世界で不思議を見つけることが目的じゃない。普通でも普通じゃない日々の中で、気の向くままに遊んでいるのがSOS団であり、ハルヒの……俺たちの望みなんだ。 そう思ったとき。 鏡の世界から投げられたハルヒの願いを、俺は確かに受け取った気がした。 ……とまあ、今回ハルヒが書いたポエムにも、それを感じさせるような言葉があったんだがな。 俺のポエムを見た後にハルヒが書いた、答えはいつもあたしの胸に、から始まる詩の中に。 そしてこちらの世界の日曜日では、俺たちは土曜日に中止となった不思議探索を通常営業で行った。 そこでばったり出会った佐々木たちをハルヒが俳句大会に誘ったのを発端に、続々と参加者が増えていったという次第なのである。 うん。今日までの流れの説明としてはこんなものだろう。 しかしまあ、佐々木と橘と周防九曜は分かるとして、藤原がやってきたのは正直意外だったな。こいつはてっきりこっちの誘いを断ってくるものだと思ってたよ。 「ふん。この国の文化に触れておくのも、僕のこれからの任務において有意義だと思ったんでね。たまには予定表にない行動をしてみるのも悪くはないよ」 「未来人の任務……これは僕の予想にしか過ぎませんが、もしかして貴方は、日本書紀を作成して聖徳太子という虚構の人物を作り出すのではないですか?」 女性陣の着替えを待機している男共が軒を連ねているあまり面白くない風景で、古泉が藤原に言う。こいつらの隣に並ぶというのもなんて居心地が悪いことなんだと思いながら、 「なんだそりゃ。つまり、聖徳太子はいなかったとでも言うのか?」 こくりと古泉。そして人差し指を立てながら、 「ええ。日本書紀でその存在が語られている聖徳太子が実は存在しなかったというのは、最近世間にも周知されてきている事実です。僕はね、このように往々にして歴史書が実際の事実と違っているのは、実はそれが未来人によって作成されていたものだったからなのではないかと想像してしまうんです。こういった方法であれば直接的にその時代を変えることなく、それからの未来を導いていけますからね。実際に聖徳太子という人物の存在は、現代の僕たちを形作る上で重要な影響をあたえていますから」 古泉の台詞に、ぷいと顔を背ける藤原。古泉は、藤原不比等がどうたらと話を続けていたかと思いきや「それよりも」と藤原の視線を自分に向けさせると、「あなたには、色々と伺いたいことがあるのですが」 藤原は溜息をつくように、 「彼女から聞いているよ。というより、全てを知らされたと言うべきか。……まさか朝比奈みくるの組織も長門と繋がっていたとはね」 「どういうことだ?」と俺が聞くと、 「長門は、僕の組織と彼女の組織を統制することによって世界を両側面から回していたのさ。僕の組織の方がどちらかといえば表で、彼女の方が裏になる。だから、こちらの方が朝比奈みくるたちよりも知らされている情報が少なかったんだ。……だが、その真実を知ったからといって、僕たちはこれまでの行動意義を疑ったりはしないよ。全ての行動が自らの意思によってなされたことに変わりはないんだ」 「その思想は《機関》の理念にも通ずるところがありますね」 そりゃ何なんだ、と聞くと古泉は遠い目をして、 「……目の前に続くこの道を、我々は自らの意思で歩いていくのだろうか、はたまた見知らぬ者の意思によって歩かされるだけに過ぎないのか――。人はその疑念を抱いた瞬間に、自身の立っている場所すら見失ってしまうことがある。しかしそれは、過去を振り返ってその道に不安を抱いた者が陥る自縄自縛の考えでしかないのです。他人の駒になってしまうことは忌避したいものですが、それを気にしてばかりいて、己が立ち止まっていることに気付かないというのは輪をかけて愚かしい行為だ。だから、僕たちはいつだって自分の意思をもって前に進むことを忘れてはならないのですよ。他の者の意思など、実は何の関係もないのです。自分の足を進めることが出来るのは、自身の意思の力以外には存在しないのですからね」 「つまり、いつだってやれることをやるだけってことか?」 「その通りです。それこそが真実に至る唯一の方法であり、また、あなたの生き様でもありますね」 これは素晴しいことです、と古泉。俺は別にそんな高尚な考えで動いているわけじゃないんだがな。出来ることしかしないだけなんだ。 「それは簡単なようでいて相当難しいことなのですよ。己に出来得ることを見極め、それを実行に移す。これは見極めるというだけでも至難の技だというのに、あなたの場合はほぼ直感的にそれを理解、行動し、その姿勢をいついかなるときも崩さない。良くも悪くも理詰めの考え方しか出来ない僕からすれば、あなたの真実を見る能力は天才的で驚嘆に値します。だから僕は、あなたには敵わないなと思うのですよ」 あんまり褒められても気味が悪いだけでしかないぜ。それにおだてられたからといって、俺がお前に敵うなんて勘違いはしない程には客観的に自分を判断する力は持ってるつもりだ。 俺たちの会話を黙したまま聞いていた藤原はチラリと古泉を見やると、 「……そこまで考えが及ぶなら、僕がキミに話すことはないんじゃないのか?」 「そうですね、あなたがもたらしてくれた理論のおかげであらかたの予想は立っています。涼宮さんの情報創造能力の正体、そして未来組織の正体についてもね。こちらから話をして様子を伺ったほうがいいのならそうさせて頂きますが」 「どの道僕が言えないこともある。キミの推論を聞いているほうが良さそうだな」 「ではまず、僕の考える情報創造能力の正体についてお話しましょう」 すると古泉は俺に、今度は四本の指を立てて見せ、 「この物質世界の物理法則は、複数の『力』によって支配されてます。それらの力は宇宙開闢の際一つの力だったものが分化して形成されたものだと推察され、これらの力が元々一つであったなら、その全てを統合し、宇宙の仕組みを統一的な原理から考えられるのではないかといった試みがなされているのですが……現在はその全ての力を統一しようとする理論の《超大統一理論》は実証されていません。が、そこで涼宮さんの時空改変能力の登場です。彼女が世界を『箱』から『紙』に変えたことによって次元の性質、つまり世界に内包されていた『力』が統合され、あの情報創造能力が発生しています。このように、世界の入れ物を変えることによって中身を統一させるという理論が涼宮さんによる《超大統一理論》であり、それは能力の発現により実証も得ている。つまり彼女に備えられた神の力の正体は、宇宙の始まりに存在し、僕たちの世界の全てを創造した『大いなる力』だったというわけですね」 まさか、あの唐変木な力にそんな正体があったなんて想像もしなかったよ。単に無茶苦茶なだけだと思ってたからな。 「なんだ。じゃあハルヒは、その力を発生させるために時空を改……」 と言いかけたところで俺は理解した。 そうか。ここでもやっぱりハルヒは力が欲しかったんじゃない。 あいつが時空を改変した理由は、小説誌に書いたハルヒの時間平面理論に関する論文が全てを語っている。 SOS団を恒久的に存続させるための方程式。 つまり俺たちと出会うことを望んだあの小さいハルヒが、SOS団でいつまでも過ごしていけるような世界を夢見て、それが時空の改変に繋がったのだろう。《あの日》に出会った俺が『鍵』となって、ハルヒは次元の箱を開いてしまったんだな。 すると古泉は遠い目をして、 「……実を言うと僕は、機関に限らず、SOS団にもいつか終わりの日はやってくると思っていたんですよ。本音を言うと今回の事件でそうなるのではないかと。……でも、そうではなかった。物語を構成する起承転結において『結』とも言えるあの出来事を通して、逆に僕たちは一つになることが出来たんです。――ここで僕は考えてしまうんですよ。ひょっとしてSOS団には、終わりなどないのではないかとね」 「……それはそれで怖い感じもするが、その理由はなんなんだ?」 古泉は微笑み、 「――SOS団が『結』を迎えたとき、そこには『団結』という言葉が形作られるからです。現に《機関》は、これから長門さんを始めとして情報統合思念体と共に歩むことに決めました。個人ではなく組織としてであれば、悠久の時を生きる長門さんをずっとサポートしていくことが可能ですからね。そして未来の《機関》こそ、朝比奈みくるさんや藤原さんの所属する組織、時間の流れの外側に身を置く時空管理局となるのでしょう。これから《機関》はそのように形態を変えていくからこそ、未来の理論も伝えられたのではないかと」 ……今まで散々話を聞かされてきたが、『団結』ね。まさか最後をそんな適当な話で締めてくるとはな。脱力せざるをえないぜ。 「そうですか? 終わりの話としては相応しいかと。それに僕は、この理論が一番好きですよ」 ふん、と俺が鼻を鳴らすと、藤原は話が終わったのを見計らったように、 「ところで古泉一樹。あんたは長門をどう思ってるんだ? 彼女といつまでも一緒にいたいだとか、そういうことは思っていないのか?」 いきなり藤原は何を言い出すんだろうか。たまらず俺は古泉に目を配る。 「流石に僕には、ずっと長門さんの傍にいるなんてことは出来ませんよ」 その言葉の意味はなんだと問いただしてやろうかと思ったが、古泉は間髪入れずに、 「ですが、そうですね……せめてこの命が続く限りは、彼女と共に過ごして行きたいものです」 そんなことを屈託のない笑み混じりに話していたとき、 「おわっ!? な、長門?」 「…………」 長門がいつの間にか俺たちの隣にちょこんと正座していた。 青紫色の着物に身を包んだ長門は、虚を突かれた古泉に視線を向けて首をこてんと傾けると、 「……古泉一樹」 そして言った。 「それは、プロポーズ?」 こいつはお前と一生添い遂げる覚悟みたいだしな。プロポーズなんじゃないか? 俺がそんなことを言うと古泉はやや困りながらもまんざらでもない反応を見せ、その姿を見ていた藤原は小憎らしい笑みを作り、 「ふん。せいぜい尻に敷かれないようにするんだな。僕が存在するためにも、頑張って欲しいと思っているよ」 「それは……」 古泉は微量の驚きを顔ににじませている。それは俺も右に同じだ。 まさか藤原は、長門と古泉の……? 「理論的には可能」 長門が淡々と口を開いた。 「ヒューマノイドインターフェースが行使する情報操作能力は、あくまでハードではなくソフトの問題。有機生命体としてのわたしの構成情報は人類のそれと同等であり、あなたたちとのあいだに生物学的な意味での差異はない。つまり、もしわたしと古泉一樹がセッ………………」 はい。テイクツー。 「わたしが普遍的な女性として生きることには、どんな弊害や支障も発生しない。唯一問題があるとすれば、相互間の精神的な問題だけ」 「じゃあ長門、お前は古泉のことをどう思ってるんだ?」 「…………」 じっと古泉の顔を見つめる長門。 「わからない。……でも、彼がわたしを守ってくれようとしてくれたことは知っている」 そして確かに、長門はにっこりと微笑んで言った。 「ありがとう」 もうおめでとうとしか言いようがないぜ古泉。これから頑張っていけば、なんとかなりそうな予感がするじゃないか。長門の笑顔を独り占めするなんて、うらやましいやつめ。 「あまりいじめないで欲しいな」 古泉は苦笑し、 「それになじり合いの勝負ならば、こちらには必勝のカードがあることをお忘れなく。組織の人間ではなく対等な友人関係としてであれば、追い詰められた僕がそのカードを切らないとは限りません」 なに言ってんだ。それはお前たちが血みどろの抗争をやってるってのが嘘だったことで相殺だ。言われなきゃわからんとはいえ、えらく無意味な嘘をついたもんだな。 「それ相応の苦労はしているつもりですよ。それに、組織には裏の顔があるほうが面白くはありませんか? 《機関》はそれこそ独占企業のようなもので、いわば敵なしの平穏そのものでしたからね。あなたの好みに合わせて、軽く色をつけてみただけです」 「そりゃお前の趣味だろうが。それに考えてみれば、一番の対抗組織だったであろう橘京子の組織とですら流血沙汰を起こしていた様子はなかったんだから、俺も気付くべきだったよ」 古泉は小さく笑い、 「それはうかつでしたね。ですが、そんな嘘を通すために当時敵対していた彼女たちと口裏あわせをするわけにもいきませんし、流石にそこまで安穏としていたわけではありませんから」 話を戻しましょう、と古泉は、 「長門さんとのことは正直戸惑っています。ですが……」 無表情を貼り付けている長門を見て、 「カマドウマ事件のとき、彼女に読書以外の趣味を教えるという件を後回しにしていたことを思い出しましたよ。そろそろ、それを考えるべき時期のようですね」 そう言いながら、古泉は流麗な笑みを長門に向ける。 俺が長門の表情に変化がないか凝視していると、 「もちろんそれはあなたもです。なんせ、あなたの方は既にラブレターまで渡しているのですから」 ここでネタ晴らしといこう。鶴屋さんやこいつがあの手紙の存在を知っている理由は、ある意味で俺の自業自得であり、ひとえにハルヒの暴挙のせいでもある。 思い出して欲しい。俺の書いたポエムは、本来機関紙に掲載されるためのものであったということを。ちなみに俺がそれを思い出したときは戦慄したね。 そう。ハルヒはあれをなんのてらいもなく無編集のまま機関紙に載せたのだ。 これはまさに俺の自業自得なのだが、ハルヒがあの内容をまんま載せた行為は暴挙だとも言えるんじゃなかろうか。 そうして俺のポエムは、機関紙の配布完了とともに全校生徒はおろか異世界にまで知れ渡ってしまったのである。 「……やれやれ」 俺はすべての憂鬱な事柄をこの一言で済ますことにした。人間諦めが肝心なのであり、ここで俺がまともに神経回路を繋いでしおうものなら、ひょっとして俺は空を飛べるんじゃないかと考え始めて暴走を開始するのは必死だからである。 「あ、キョン先輩。近くに涼宮先輩はいないですよね? フフ。この格好どうですか? 着物なんて初めて着ちゃいました」 物陰からぴょんと跳ねて朝比奈みゆきが姿を現した。エメラルドグリーンの着物姿をくるりと見せて微笑んでいるのは実に愛らしいのだが、いかんせんスマイルマークの髪留めが格好に似合っていない。 「むう。これはしょうがないんです。あたしすごいくせっ毛で、他の人にいじられるよりはこのまま留めておきたいんです」 そういうものなのかね、と思っていると、 「あなたに渡したいものがある。こっちに来て」 「ほえ?」 長門が朝比奈みゆきを呼びつけて渡したものは、髪飾りだった。 「それ、もしかしてあの金属棒のか?」 聞きながら品物を見てみると、それは透明なガラスで作られたような綺麗な雪の結晶だった。 「って、花じゃないじゃないか。雪には六花って呼び方もあるらしいが、花言葉なんてあるのか?」 すると藤原が、 「アイリス? ちょっと貸してくれ」 と長門から髪飾りを受け取り、それを陽にかざすと、 「アイリスの花言葉は『架け橋』だよ。それはアイリスという名前が、虹を意味しているからなんだ」 雪の結晶が光を受けて、藤原の顔にスペクトルが映し出される。長門はこくりと頷き、朝比奈みゆきを見つめて、 「あなたが平和な日常を送れるようになるためのお守り。出来るだけ身につけておいて欲しい」 そういうことかと思ったね。 朝比奈みゆきは、朝比奈さんが北校を卒業した後で北校に入学し、朝比奈さんの後釜としてSOS団に入ってくる予定らしい。学校でむやみに能力を使ってしまわないようにと考えた長門の配慮なのだろう。 そしてこの花言葉を選んだ理由は、朝比奈みゆきが思念体と人の仲を取り持つような生い立ちをしてきたからなのかもな。それに確かアイリスには、他の花言葉もあったような気がする。 「うわあ、とっても綺麗……。長門おねえちゃんありがとう! じゃあこれは代わりにあげちゃいます。あ、お揃いがいいな」 と言って、自分の髪留めを長門のと同じ形の雪の結晶に成形した。おいおい、誰か他のやつに見られやしなかっただろうな。 「僕も満足した。なぜか長門はこれを僕に触らせようとしなくてね。ほら、返すよ」 藤原が朝比奈みゆきに髪飾りを渡し、そしてみゆきの髪飾りを受け取った瞬間、パキン。という不穏な音が周囲に響く。 「あ」 藤原が髪飾りを掴み割ってしまったのを見て、全員が思わず声を出した。 長門は無駄のない動きでみゆき製髪飾りを藤原から掠め取ると、 「……あなたにはもう触らせてあげない」 「な……」 藤原は怪訝な顔をして、そういうことか、と呟く。 藤原と長門がそんなコントをしているとき、朝比奈さんがぱたぱたと近づいてきて、 「待たせちゃってごめんなさい。あ、長門さんとみゆきちゃんも一緒みたいで良かった。みんなの着替えが終わったからそろそろ写真を撮るみたいです。あそこの木の下に集合って言ってました」 朝比奈さんは、オレンジというよりは山吹色と表したほうが相応しい着物に身を包み、素人目からでも分かるその良質な作りの服は、それだけでいずれかの童話にナントカ姫として出てきそうな程彼女を引き立てていた。 と、この和服姿とは別に、俺は朝比奈さんの姿を見ていて一つ思うところがある。 今回の異世界騒動なのだが、タイミングが良いのか悪いのか、この朝比奈さんは《あの日》の裏で起きていたこの事件を知らないのだ。大人の朝比奈さんが知らなかったので当然なのだが、これはもしかして、小さい朝比奈さんの負担を減らそうという未来の長門の配慮だったのではないだろうか。朝比奈みゆきに髪飾りを譲ったり、あいつは自分のことよりも周りを優先させてしまう節がある。それを考えても、やはり俺たちが一緒に過ごせる時間のなかで、長門のために俺たちが伝えられることはすべて伝えて行きたいと切に思う。 それに未来では朝比奈さんも待っているし、みゆきだって藤原だっている。考えてみれば、俺の子孫とハルヒの子孫がそろえばSOS団が結成出来そうだよな。 出来れば、俺はそうなって欲しいと願いつつ。 「みんな集まったみたいね! じゃあ早速この色紙に未来へのメッセージを書いて頂戴。未来って言っても大人の自分にじゃなくて、遠未来の未来人に向けたものよっ」 「なんだ、タイムカプセルの準備はしてないみたいだが、しないのか?」 「気付いたんだけどね、タイムカプセルは自分たちで掘り起こすべきであるイベントなのよ。それにあたしたちの行動は未来にとって常識レベルの歴史になってるはずだし、あたしたちの生み出したものは石油並みに生活に必須なものとして使われているんじゃないかって思うわけ」 あながち間違いでもないことを揚々と言い切るハルヒは、 「だからタイムカプセルを残したところで、未来人にとってはあたしたちが石炭をお宝として見つけるようなもんでしょ? それより、SOS団からのありがたいメッセージがあったほうが喜ぶはずよ。ってことで、みんなで寄せ書きをしてそれを埋めようってことにしたの」 ふふんと誇らしげに胸を張る。なにが誇らしいのか俺には分からないが、良案なんじゃないか? なんてったって紙は安全だからな。奇怪なメカや珍妙な物体が長い間箱の中に入ってるよりましだ。 俺が将来このメッセージを掘り起こすであろう朝比奈さんたちの身を案じていると、くっくっと特徴的な笑い声が聞こえ、 「涼宮さんは面白いことを考えるね。この場に来てしまうのは正直気が引けたんだが、理由もなく断るような真似をしなくて正解だった。ほんとに楽しいね、ここは」 ハルヒも長門も朝比奈さんも相当に男の目を引っかけるのだが、俺の目はそれに少々慣れていたのかも知れない。 普段と変わらぬ口調と服装のアンバランスさが何らかの効果をもたらしているのか、緋色の着物姿の佐々木は文句なしに美人だった。 「ほら、佐々木さんに見とれてないで、あんたからまず書いちゃって。もし面白くないことを書いたりしようものなら、なにが面白かったのかをみんなの前で説明させるからね」 ぐっとくる台詞を言うじゃないか。なんせ、これが冗談じゃないっていうんだからな。 ここでの面白いとは何のことを言うのだろうと思いつつ、俺はハルヒから渡されたサインペンと色紙を構える。何を書こうか。 「そうだな……」 ここは一つ、未来のSOS団結成に足りない俺とハルヒの枠を埋めてもらって、あっちのほうでSOS団を結成してもらうように頼んでおくか。 俺はスラスラとペンを走らせて、その辺でアホな面を下げていた谷口へと色紙を手渡す。 すると谷口は「ぎょっ」というありえない悲鳴を出し、 「おいおい。ポエムの件に関しちゃあ俺も書くように言ってたからよ、たとえラブレターを読まされても文句は言わん。まさか本当に書いちまうとは思ってなかったが……。しかしだなキョンよ。こんなところでまでノロけられちゃあ流石に滅入るぜ?」 何を言ってるんだなんて言葉はお前には飽きるほど言ってきたと思うんだが。いい加減俺にも分かりやすく物事を話してくれると助かる。 「貸しなさい」とハルヒは色紙をひったくると、俺が書いたメッセージを見るやいなや顔を朱に染めて、 「……ばっ! あんた、なんてこと書いてんのよ!? バカじゃないの、このエロキョン!」 いやあ罵られている理由がまったくの不明であるがゆえに、こちらとしてはなんともリアクションがとれないぜ。 一体いま何が起きているのかを確認しようと、俺も再度自分の言葉を確認してみると、 「げ」 どうやらとんでもない齟齬が発生しているらしいということに気がついた。 「ち、違う! これはそういう意味じゃないんだって!」 「おや、ではどのような意味なのです? そのままの意味ではないのですか?」 小憎らしいスマイルを浮かべて俺をなじる古泉。さっきの仕返しをしてきやがるとは、お前も中々やるようになってきたじゃねえか。いいだろう、覚悟しろよ古泉? 今からお前が未だかつて見たことのないほど頭を下げて降参する男の姿を見せてやる。 そんなこんなを言いながら、全員が集合していることもあって、場内ははやしたてるように一気に騒がしくなった。が……。 俺は、自分の書いた言葉に対するみんなの誤認を強くは否定出来なかった。 一人の少女の憂鬱から始まった物語。 それはいつの間にか俺たちの物語となって、これから先の未来へと続いていく。 しかしまあ、俺はここらで、未来に向けた俺とハルヒのメッセージをもって長く続いたこの物語に一応の節目をつけておこうと思う。 まず、我らが誇るべきSOS団創設者であり絶対不可侵なる団長、涼宮ハルヒの言葉はこれだ。 『未来永劫、SOS団に栄光あれ!』 みんなで撮った集合写真を見せられないのが悔やまれる。みんなこの言葉を胸に、相当良い笑顔をうかべていたんだぜ? そして最後を締めくくるのは、僭越ながら俺の言葉である。 先に言っておくが、俺はSOS団と、みんなと、そして何よりハルヒに出会えて最高に良かった。 そんな俺が書いた言葉は……、 『俺とハルヒの子供をよろしく』 さて。 この言葉が将来どんな意味を持つことになったのかは――禁則事項だ。 涼宮ハルヒの団結 完
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~部室にて~ ガチャ 鶴屋「やぁ!みんな!」 キョン「どうも」 みくる「鶴屋さんどうしたんですかぁ?」 鶴屋「今日はちょっとハルにゃんに話があるっさ!」 みくる(あぁ、あのことかぁ) ハルヒ「え?あたし」 鶴屋「そっさ!」 ハルヒ「?」 鶴屋「明日、ハルにゃんと長門ちゃん、みくるとあたしで遊び行くよ!」 ハルヒ「でも明日は団活が」 鶴屋「名誉顧問の権限を行使させてもらうよ!」 ハルヒ「えっと……有希はいいの?」 長門「構わない」 ハルヒ「みくるちゃんは?」 みくる「わたしは鶴屋さんから、事前に言われてましたからぁ」 ハルヒ「古泉君とキョンは?」 古泉「つまり男性禁制ということですよね?僕は大丈夫ですよ」 キョン「あぁ、俺も問題ない」 鶴屋「ハルにゃんはどうなのさ?」 ハルヒ「う~ん、そうね。たまにはいいかも」 鶴屋「じゃあ決まりっさ!」 みくる「ふふふ」 長門「……」ペラ 鶴屋「さぁ、こっからは女の子同士の話し合いの時間だよ!男子諸君は出てった、出てった!」シッシッ 古泉「そういうことなら帰りますが、よろしいですか涼宮さん?」 ハルヒ「そうね。今日は鶴屋さんに免じて二人とも帰っていいわよ」 キョン「じゃあそうさせてもらうぞ」 古泉「それでは、みなさん。また来週」 みくる「お気をつけて」 鶴屋「バイバ~イ」フリフリ ガチャ 鶴屋「さて、男子は追い払ったね。それで明日は何時頃なら大丈夫?」 ハルヒ「どっちにしろ朝から団活のつもりだったから、何時でも平気ね」 鶴屋「長門ちゃんは?」 長門「大丈夫」 鶴屋「みくるも大丈夫?」 みくる「はい」 鶴屋「じゃあ朝十時に駅前ね!」 ハルヒ「わかったわ」 鶴屋「それとさ、お弁当は持参だよ!」 みくる「近くにお店はないんですかぁ?」 鶴屋「ないことはないけど」 ハルヒ「別にいいんじゃない?」 鶴屋「さすがハルにゃん、話が分かるっさ!」 ハルヒ「どうせだから勝負しましょうよ?」 みくる「勝負ですかぁ?」 ハルヒ「そう料理対決!学年別のチーム戦よ!」 鶴屋「ってことは、あたしとみくる対ハルにゃんと長門ちゃんだね?」 ハルヒ「そうよ」 鶴屋「望むところっさ!ねっ、みくる!」 みくる「ふふふ。そういうことなら頑張っちゃいますよぉ」 ハルヒ「有希もそれでいいわよね?」 長門「いい」 ハルヒ「じゃあ今夜は有希のうちに泊まりいくわよ?」 長門「構わない」 鶴屋「それならあたしもみくるんとこ泊まりに行こっかなぁ」 みくる「わ、わたしの部屋はちょっと~」 鶴屋「いつになったら部屋片付けんの?」 みくる「そ、そういうわけじゃないですってばぁ~」 鶴屋「なら今夜はあたしんとこ来なよ!」 みくる「わかりましたぁ」 ハルヒ「それで、鶴屋さん。明日はどこ行くの?」 鶴屋「それは明日のお楽しみっさ!」 ハルヒ「団活休みにするくらいなんだから、楽しみにしてるわね!」 鶴屋「あんまりプレッシャーかけられると困るんだけどな~」 みくる「ふふふ」 長門「……」ペラ みくる「涼宮さん、今日はこの後どうしますかぁ?」 ハルヒ「そうね、あの二人帰しちゃったし……」 鶴屋「じゃあ解散でいいじゃん!あたしは明日のレシピをみくると相談せねばね」 ハルヒ「そうしましょっか」 みくる「それじゃあ、一度家に帰って着替えを取りに行きますねぇ」 鶴屋「あたしもついt」 みくる「鶴屋さんはおうちで待っててくださいね」 ハルヒ「みくるちゃん随分かたくなに拒否するわね……何かあるの?」 みくる「そ、そういうわけではないんですけどぉ……」 鶴屋「ハルにゃん、ハルにゃん、みくるはきっと部屋に男を飼ってるんだよ」ボソ ハルヒ「ウソ!?」 みくる「つ、鶴屋さ~ん、そんわけないじゃないですかぁ~」 ハルヒ「みくるちゃんがね~」 みくる「涼宮さんまで~」 鶴屋「あはは、それじゃ解散しよっか!」 長門「……」パタン ハルヒ「有希もきりがいいみたいだしね」 みくる「部屋に男の人なんかいませんからね?」 鶴屋「分かった分かった、ほら帰るよ!」 みくる「適当じゃないですかぁ」 ハルヒ「有希、あたしも家帰って、それから六時半くらいにはマンション行くわ」 長門「……」コク ハルヒ「それじゃあ鍵閉めるわよ?みくるちゃん早く」 みくる「は、はーい」トテトテ ガチャ ハルヒ「よしっと、それじゃ行きましょ」 鶴屋「はいよ~」 ~帰り道にて~ ハルヒ「さすがに夏ね。五時前だってのにこんなに明るい」 鶴屋「日が長くなると一日が無駄に長く感じるよ」 みくる「でも、お洗濯とか出来るし、いいことも多いですよ?」 ハルヒ「みくるちゃん主婦みたいね」 鶴屋「そりゃ仕方ないよ、ハルにゃん。家で主婦やってんだから」 みくる「まだ言うんですかぁ」 鶴屋「あっはっはっはっ!もう止めたげるよ」 みくる「もう!」 ハルヒ「話戻すけど、どうせなら夏が日が短く、冬が日が長く、この方がいいわよね」 長門「それでは生態系がおかしくなる」 ハルヒ「初めっからそうだったらそうゆう進化をするでしょ?」 長門「……」コク ハルヒ「別に、今から変われー!、ってわけじゃないわよ。あくまで希望よ、希望」 みくる(そ、それでも涼宮さんにそう希望されるのは) 長門(非常に困る) 鶴屋「でも、夏の日が長いおかげでいっぱい遊べるんだし、ハルにゃんとしては結果オーライじゃないのかい?」 ハルヒ「う~ん、それもそうね」 みくる「ほっ」 鶴屋「どしたの、みくる?」 みくる「な、なんでもないですよ」 鶴屋「?」 長門「……」トテトテ ハルヒ「それじゃこのへんで別れましょ」 鶴屋「そうだね、明日は覚悟していなよ、ハルにゃん?」 ハルヒ「例え鶴屋さんでもそうはいかないわよ」 みくる「それじゃあまた明日」 ハルヒ「ばいばい」 鶴屋「ばいば~い」フリフリ ハルヒ「それじゃあ有希。またあとでね」 長門「……」コク ~長門宅にて~ ピンポーン 長門「……」 ???「あたしよ」 長門「知らない」 ???「有希!」 長門「ジョーク。今開ける」 カチャ ハルヒ「毎回毎回よくも飽きないわね」 長門「反応がいい」 ハルヒ「余計なお世話よ。とりあえずあがるわね」 長門「どうぞ」 ハルヒ「お邪魔しま~す。おっ、前より小物が増えてきたわね」 長門「あなたが選んだものがほとんど」 ハルヒ「だって有希全然選ぼうとしないじゃない」 長門「そうでもない」 ハルヒ「そうだっけ?」 長門「そう」 ハルヒ「よっこいしょっと」バフ 長門「そこは私のベッド」 ハルヒ「知ってるわよ。なんか落ち着くのよね~」 長門「そう」 ハルヒ「なんでかしらね?このまま寝ちゃってもいい?」 長門「構わない」 ハルヒ「いいわけないでしょ、明日のお弁当のおかず買ってこなきゃ」 長門「……」コク ハルヒ「財布は持った?」 長門「持った」 ハルヒ「鍵閉めた?」 長門「閉めた」 ハルヒ「じゃあ行くわよ」トテトテ 長門「……」トテトテ ~移動中~ ハルヒ「有希って小さいくせに歩くの早いわね」トテトテ 長門「あなたが遅い」トテトテトテ ハルヒ「言ったわね」トテトテトテトテ 長門「……」トテトテ ハルヒ「ほら、あたしのほうが早い」トテトテトテ 長門「急ぐ理由がわからない」トテトテ ハルヒ「ぐっ」 ハルヒ「有希って晩御飯まだでしょ?」 長門「……」コク ハルヒ「なんか食べたいものある?」 長門「カレー」 ハルヒ「いつもそれじゃない?作る方としてはもっとレパートリーを増やしてくれた方が、作りがいあるんだけど?」 長門「……」 ハルヒ「って、なんか奥さんの台詞ね、これ」 長門「ハンバーグ」 ハルヒ「いいわよ。それもあたしの得意料理のレパートリーにあるから」 長門「期待する」 ~スーパーにて~ ハルヒ「さて、明日のお弁当の中身どうしようかしら」 長門「カr」 ハルヒ「いい加減にしなさい」 長門「……」 ハルヒ「……そもそも、何を基準で勝ち負けにするか決めてなかったわね」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「明日みんなで決めればいっか」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「さっきからなに探してるの?」 長門「弁当箱」 ハルヒ「え?」 長門「明日お弁当を持っていくなら箱は必要」 ハルヒ「いや、だから、有希ってお弁当学校持ってたりしたことないの?」 長門「ない」 ハルヒ「……」 長門「?」 ハルヒ「いつもどうしてるの?」 長門「禁則事項」 ハルヒ「は?」 長門「ジョーク」 ハルヒ「はぁ、まぁいいわよ。食材コーナーにはないからあっちに探しに行きましょ」 長門「……」コク ハルヒ「スーパーにしては結構種類あるわね」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「どれにするの?」 長門「これ」 ハルヒ「それは保存用のタッパーよ、それ以前に大きすぎよ!」 長門「いける」 ハルヒ「ダメよ」 長門「……」ジー ハルヒ「そもそもそれだと鞄に入らないじゃない」 長門「……うかつ」 ハルヒ「有希は大食いだからなぁ……これくらいが妥当じゃない?」 長門「小さい」 ハルヒ「あたしの二倍はあるわよ?」 長門「……わかった」 ハルヒ「なんか子供をあやしてるみたい」 長門「肉体的には同年齢」 ハルヒ「肉体的?有希の方が幼く見えるけど?」ニヤ 長門「……」 ハルヒ「明日のお弁当のおかずはこんなもんね。他食べたいものある?」 長門「カr」 ハルヒ「ないみたいね。それじゃレジ行きましょ」 長門「……」コク ハルヒ「今日もワリカンよ?有希っていつも全部払おうとするんだもの」 長門「作るのは私ではないから」 ハルヒ「じゃあ今日は有希も一緒にやりましょ?」 長門「一緒に?」 ハルヒ「そう、あたしのお手伝い」 長門「いい」 ハルヒ「まったく、どっちのいいよ?」 長門「肯定」 ハルヒ「よろしい」 ~帰宅中にて~ ハルヒ「日が落ちると涼しくていいわね」 長門「……」コク ハルヒ「……あっ、流れ星だ」 長門「……」トテトテ ハルヒ「流れ星が消えるまでにお願い事を、三回言えば願いが叶うかぁ。まず無理ね」 長門「無理」 ハルヒ「なんか短文でないかしら……」 長門「………」 ハルヒ「死ね死ね死ね、とか?」 長門「あなたが言うと笑えない」 ハルヒ「いつもの有希みたいにジョークよ」 長門「あなたのジョークは厄介すぎる」 ハルヒ「そう?」 長門「故に笑えない」 ハルヒ「そもそも笑わないくせに」 長門「あなたには才能がない」 ハルヒ「言ってくれるわね」 長門「言った」 ハルヒ「いつか笑わせてやるんだから」 長門「そう」 ~長門宅にて~ ガチャ ハルヒ「ただいまー」 長門「……」 ハルヒ「有希も言いなさいよ」 長門「中には誰もいない」 ハルヒ「いいから」 長門「ただいま」 ハルヒ「おかえり。ね、いるときはいるのよ」 長門「そう」 ハルヒ「そうなのよ」 ハルヒ「とりあえず今日買った食材を冷蔵庫に閉まっておいて」 長門「わかった」 カチャカチャ パタン 長門「閉まった」 ハルヒ「じゃあ少し休んでから、夜ご飯の支度しましょ」 長門「……」コク ピッ ハルヒ「どの番組もつまんないわね」 ピッ 長門「そう」 ピッ ハルヒ「どれもこれも前見た番組のパクリみたいな内容じゃない」 ピッ ハルヒ「TV見ててもつまんないし、晩御飯作りましょ?」 長門「それがいい」 ~食事後~ 長門「ごちそうさま」 ハルヒ「おそまつさま。なんかこの雰囲気にも慣れてきたわね」 長門「?」 ハルヒ「あたしが有希の家に来て、二人でご飯食べて、ゴロゴロして、色々話して、と言っても有希は聞くのが専門よね」 長門「……」 ハルヒ「ふふ。悪くない、悪くないわ。なんか通い妻みたいで変な気分だけど」 長門「悪くない」 ハルヒ「有希も?」 長門「……」コク ハルヒ「そっか。……あたしね、これからも有希とはずっと一緒にいたい」 長門「大丈夫。私が守る」 ハルヒ「ふふふ。私よりちびっ子の癖になに言ってんのよ」 長門「……」 ハルヒ「お風呂ありがと」 長門「構わない」 ハルヒ「明日はお弁当作んなきゃだし、早く寝ましょう」 長門「……」コク ハルヒ「あたしは髪乾かしてから寝るわ。おやすみ、有希」 長門「おやすみなさい」 ハルヒ「……」 ~翌日~ ???「……ルヒ、……う朝、起……」 ハルヒ「う~ん」 ???「もう……、……て」 ハルヒ「あ、あとごふん」 ???「わかった」 ハルヒ「……ん」Zzzz ???「いい加減に起きて」ポカ ハルヒ「……えぇ?ふわぁ~あ、おはよう有希」 長門「おはよう」 ハルヒ「なんか有希のうちって安心して寝れるわ」 長門「そう」 ハルヒ「そうなの。ところで今何時?」 長門「午前八時ちょうど」 ハルヒ「……え?」 長門「午前八時ちょうどと言った」 ハルヒ「……!や、やばいじゃない!約束まで二時間しかない!」 長門「正確には一時間五十八分三じゅ」 ハルヒ「やばいわ!ご飯に火入れなきゃ!」 長門「もう入れた」 ハルヒ「でかしたわ有希!」 長門「当然」 ハルヒ「それじゃあ、すぐ顔洗ってくるから台所で待ってて!」 長門「わかった」 ~駅前にて~ 鶴屋「おはようハルにゃん!」 みくる「おはようございます」 ハルヒ「おはよう、ほぼ同時についたわね」 鶴屋「そうだね!ちゃんとお弁当は持ってきたかい?」 ハルヒ「ばっちりよ!ね、有希?」 長門「……」コク ハルヒ「それで今日はどこ行くの?」 鶴屋「ふふふ。実はこの間、こんなものを貰ったのさ」バッ みくる「チケット、ですか?」 鶴屋「そうさ!五月の半ばにオープンしたばかりの、あの遊園地のチケットだよ!」 ハルヒ「あの遊園地!CMとか見て興味があったのよね、実は」 みくる「あ、あそこってジェットコースターが目玉なんですよねぇ……」 鶴屋「んふふふふ。頑張ろうね、みくる♪」 みくる「ひぃ」ビク ハルヒ「あれ?遊園地ならお弁当いらないんじゃないの?」 鶴屋「あそこの飲食店って、めがっさ混むみたいなんだよ」 ハルヒ「そうゆうことか」 鶴屋「そう、せっかく遊びに行くんだから、少しでも遊ばないとね」 ハルヒ「賛成だわ。それじゃあとっとと行きましょ!」 鶴屋「おー!」 ~遊園地にて~ ハルヒ「……これは」 みくる「……想像以上に」 鶴屋「……人だらけだね」 長門「……うるさい」 ハルヒ「なにはともあれ……遊ぶわよ!有希、あれ、あれ乗ろ!」グイ タタタッ 鶴屋「ありゃ、行っちゃた」 みくる「ですね」 鶴屋「あたしたちも行くよ!」 みくる「は、はぁい」 タタタッ ワーー! みくる「こ、これに」ブルブル キャーー! みくる「の、乗るんですか?」ブルブル ギャーーーーー! ハルヒ「だってこれが目玉なんでしょ?みくるちゃんが自分で言ってたじゃない?」 鶴屋「観念しなよ、みっくる♪」 みくる「そ、そんなぁ」ブルブル 長門「面白そう」 みくる「長門さんまでぇ~」 ハルヒ「女は度胸よ!」ガシッ みくる「ひ、ひぇ~」ズルズル みくる「ど、どんどん高くなってきましたよ?」 みくる「レ、レ、レ、レールが、み、見えませんよ?」 みくる「え?落ち……キャアァァッァァァァァ!!!」 みくる「わぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」 みくる「ひゃぁあっぁぁぁぁぁぁ!!!」 みくる「……、……。……」 ハルヒ「いやー!凄かったわね、有希!」 長門「ユニーク」 鶴屋「たしかにみくるはめがっさユニークだったっさ!ほんとに悲鳴上げるんだもん!あっはっはっはっはっは!」 みくる「す、少し、うっ、や、休ませてくださぃ」 ハルヒ「何言ってるの、まだ一つ目じゃない!次行くわよ、次!」 みくる「こ、これって」 長門「ホラーアトラクション」 ハルヒ「さぁ行くわよ!」 みくる「む、無理ですよぉ~」 鶴屋「結構怖いみたいだよ、ハルにゃん」 みくる「あれ?」 ハルヒ「そうなんだ、でもどんと来いよ!」 みくる「わ、わたし入らなくていいんですかぁ?」 ハルヒ「こういうとこって本物が出たりするらしいじゃない?」 みくる「あ、あの~」 鶴屋「TVで見たことあるっさ!」 ハルヒ「出てきたら捕まえてやるわ!ね、有希」 長門「……」コク スタスタ みくる「置いてかれた……。わ、わたしもい、行きます!」トテトテ ハルヒ・鶴屋(作戦通り!) みくる「ふぇ~、ま、真っ暗ですよぉ」ブルブル みくる「ひゃ!い、今向こうに、だ、誰かいましたよ~」ブルブル みくる「え?後ろ?……ひぃゃぁぁあああっぁぁぁぁ!!!」パタパタ みくる「きゃ!ひっ!」コテン みくる「……うぅ、うぅ、うぅぅぅ」ポロポロ ハルヒ「ご、ごめんね、みくるちゃん。まさかこんなに怖がるとは思ってなかったのよ」 みくる「ひっく、ひっく」ポロポロ 鶴屋「悪ノリしすぎたよ、あたしからもごめんね?」 みくる「うぅっ、も、もう大丈夫です、ひっく」グス 長門「ユニーク」 ハルヒ「こら!有希!」ポカ みくる「もうそろそろ、お昼だしお弁当にしませんかぁ?」 鶴屋「そうしよ!あそこの芝生を陣取ろうよ!」 ハルヒ「賛成!」 長門「……」グゥゥ トテトテ ~芝生にて~ ハルヒ「昨日話した勝負のこと覚えてるわね?」 鶴屋「もちろんっさ!」 ハルヒ「基準は見た目と味でいいわよね?」 みくる「はい」 鶴屋「一生懸命作ったからね。この勝負いただいたよ!」 ハルヒ「ふふふ、ではいざご開帳!」 パカッ 鶴屋「あ」 みくる「そんなぁ~」 ハルヒ「こんなのって」 長門「……」 ハルヒ「……そういえば鞄持ったままアトラクション回っちゃたわね」 長門「グチャグチャ」 鶴屋「これはさすがにショックだよ……」 みくる「でも、形は悪くても食べられますから」 ハルヒ「わかってる、わかってるわ」 鶴屋「それでも、苦労が水の泡ってのはねぇ……」 長門「……」モグモク ハルヒ「勝負はお預けね……」 ~食事後~ ハルヒ「それじゃあ、あたしと鶴屋さんでフリーフォールみたいの乗ってくるわね」 鶴屋「みくるはそこのベンチで休んでて!」 みくる「わかりましたぁ」 ハルヒ「有希も来る?」 長門「……」フルフル ハルヒ「そう、それじゃあそこであたしたちの勇姿を見てなさい」 長門「……」コク みくる「ふぅ、お二人とも元気ですねぇ」 長門「……」コク みくる「……」 長門「……」 みくる(き、気まずいよぉ~) 長門「朝比奈みくる」 みくる「は、はひ!」 長門「?」 みくる「なんでもないです、続けてください」カァァァ 長門「質問がある」 みくる「質問ですか?」 長門「この先はどうする?」 みくる「え?多分ご飯でも食べにいくんじゃないですか?」 長門「違う。今後の動き。私は涼宮ハルヒの力の観察」 みくる「わたしは……監視です。もとよりそれが目的ですから」 長門「なぜ監視を?」 みくる「禁則事項です」 長門「この後世界は、涼宮ハルヒはどうなる?」 みくる「禁則事項です」 長門「今まで起きてきた出来事は全て予定通り?」 みくる「禁則事項です」 長門「そう。ならいい」 みくる「……。長門さんは観察が目的なんですよね?」 長門「……」 みくる「観察の対象と仲良くなるのは、いいことなんですか?」 長門「私だけではないはず」ジー みくる「わたしはそんなつもりではなかったんです!でも長門さんは涼宮さんとは……親友なんですよね?」 長門「そう」 みくる「わたしは、わたしはこんなはずじゃなかった……なかったんです……」 長門「?」 みくる「……これ以上は言えません」 長門「そう」 みくる「長門さんはどうするんですか?」 長門「変わらない。いつも通り。しかし」 みくる「?」 長門「私という個体は涼宮ハルヒのそばにいたいと思っている」 みくる「……」 長門「これは私の意志。涼宮ハルヒは私を必要としてくれている」 みくる「……そうですよね」 長門「それに答えるのは親友として当然」 みくる「……わたしは」 長門「古泉一樹に新たな鍵は私だと言われた」 みくる「古泉君が?」 長門「そう。そのことでどうなるかはわからない。ただ、涼宮ハルヒに危害を加えるなら、誰であっても容赦しない」 みくる「……わたしに関しては大丈夫です。そんなことをする理由がありませんから」 長門「そう」 みくる(……わたしは、わたしはただの監視者だから……これからもただ見ているだけの……) 鶴屋「みっくる~!いや~めがっさすごかったよ~!こう、ビューンとさ、ってみくる?」 みくる「……え?」 鶴屋「なんか元気ないよ?大丈夫?」 みくる「だ、大丈夫ですよぉ」 ハルヒ「どうせ有希が変なこと言ったんでしょ?最近辛口なのよね、このコ」 みくる「ち、違いますから、はしゃぎすぎて気分が悪いだけですよ」 鶴屋「無理しちゃダメだかんね?」 みくる「もう平気ですよ」ニコ ハルヒ「それじゃあ激しいアトラクションは一旦休憩にしましょ」 鶴屋「そうっさね。……さっきまでみくるは長門ちゃんと話してたの?」 みくる「はい。長門さんとあんなにおしゃべりしたの初めてです」 ハルヒ「有希と会話が続くなんて凄いわね。あたしですら難易度が高いのに」 鶴屋「なに話してたの?」 みくる「長門さんとの秘密なんです」 ハルヒ「有希、教えなさいよ~」 長門「禁則事項」 みくる「……」 鶴屋「……。みくる、なんか飲み物買ってくるけど何がいい?」 みくる「ありがとうございます。お茶がいいです」 鶴屋「わかったよ。長門ちゃん、一緒に買いにいこ?」 長門「……」コク ハルヒ「有希、あたし炭酸がいい」 長門「わかった」 ~自販機前にて~ 鶴屋「……ねぇ、長門ちゃん?」 長門「何?」 鶴屋「みくるに何言ったの?」 長門「質問をしただけ」 鶴屋「質問?どんな?」 長門「言えない」 鶴屋「なんで?」 長門「言えない」 鶴屋「なら、単刀直入に聞くけど、……みくるをいじめてたのかな?」 長門「……」フルフル 鶴屋「信じていいの?」 長門「どちらでも」 鶴屋「……」 長門「……」 鶴屋「……うん、疑ってごめんよ?みくるってあんなんだからさ、友達として不安だったんだよ」 長門「そう」 鶴屋「長門ちゃんだって、ハルにゃんのこと見捨てられないでしょ?」 長門「もとより見捨てない」 鶴屋「だよね、とはいえ、疑ってほんとにごめんね」 長門「いい。ただ」 鶴屋「なに?」 長門「今小銭がない」 鶴屋「先輩にたかる気かい?」 長門「違う、悪いと思っているなら、お金を貸して欲しい」 鶴屋「いいよ、後輩のぶんくらいお姉さんが買ったげる♪」 長門「感謝する」 鶴屋「はい、みくる」 みくる「ありがとうございます」 ハルヒ「……抹茶の炭酸ってなによ?」 長門「あった」 ハルヒ「炭酸と言ったのはあたしだけど……これはないわよ」 長門「飲まず嫌い?」 ハルヒ「うっ……、いいわ、飲んでやるわよ!」ゴク 鶴屋「ど、どお?」 ハルヒ「……」フルフル 長門「ユニーク」 ハルヒ「……デコピンよ」ピシ 長門「……」ナデナデ ハルヒ「鶴屋さん、今日はありがとね」 鶴屋「なに、いつもみくるがお世話になってるからね。そのお礼さ♪」 みくる「ふふふ」 ハルヒ「あたしだってみくるちゃんにお世話になってるわよ?」 みくる「涼宮さん……」 ハルヒ「コスプレとか、部室の掃除とか、お茶汲みとか」 みくる「え、えぇ~」 鶴屋「先輩をパシリ扱いとはいけない子だね?こうしてやる!」 ハルヒ「や、やめて、鶴屋さん、アハハ、うそ!冗談だから!アハハちょ、くすぐったいってば~」 鶴屋「参ったか!」 ハルヒ「……このあたしが、はぁーはぁー、やられて、黙ってる、とでも?」 鶴屋「ん?」 ハルヒ「えい!」 鶴屋「ハルにゃん、ひ、卑怯だよあっはっはっは、そこは、はんそ、反則だよ、あっはっはっは」 ハルヒ「やられたらやり返さないとね」 鶴屋「覚えてろよ~」 ハルヒ「返り討ちにしてやるわ!」 鶴屋「せっかくだしこの後ご飯でも食べ行く?」 ハルヒ「そうね。どこ行く?」 長門「……」クイクイ ハルヒ「ん?どしたの有希?」 長門「あれ」 ハルヒ「あれ?」 鶴屋「あれはバイキングだね!」 みくる「も、もう怖いのいやですよぉ」 ハルヒ「みくるちゃん、ただの食べ放題よ。有希あそこがいいの?」 長門「……」コクコク ハルヒ「二人ともあそこでいい?」 鶴屋「あたしは構わないっさ!」 みくる「大丈夫です」 ハルヒ「それじゃあ、行きましょっか」 長門「……」トテトテ ~帰り道にて~ 鶴屋「いや~めがっさお腹いっぱいだよ」 長門「満腹」ケプ 鶴屋「女四人がバイキングでがっついてる光景は、シュールだったろうね」 ハルヒ「がっついてたのは鶴屋さんと有希だけでしょ?あたしとみくるちゃんは腹八分よ」 みくる(それでも食べすぎちゃいました……) 鶴屋「それじゃあ、ここらでお別れだね」 ハルヒ「そうね、今日は楽しかったわ。ね、有希?」 長門「……」コク 鶴屋「そりゃ良かった。誘ったかいがあったってもんだよ」 ハルヒ「じゃあまた学校でね。鶴屋さん、みくるちゃん」 鶴屋「バイバイ」 みくる「あ、あの、長門さん」 長門「何?」 みくる「少し、少しだけいいですか?」 長門「構わない」 みくる「お二人は少しだけ待っててください」 鶴屋「わかったっさ」 ハルヒ「有希はあたしのだから持って帰っちゃダメよ」 鶴屋「おっ、ラブラブだねぇ~」 ハルヒ「ジョークよ、ジョーク」 みくる「ちゃんとお返ししますから」ニコ 長門「何?」 みくる「本当はこんな事を言うのは禁止されています」 長門「……」 みくる「でも、でもわたしも長門さんも、望む望まないに関わらず、主要人物の一人になってしまいました」 長門「……結果的に私は望んだ」 みくる「そ、それは長門さんの場合です!」 長門「わかっている」 みくる「……同じ『部活仲間』としての忠告です。涼宮さんとは距離を置いてください」 長門「……何故?」 みくる「……この間私向けにそういう指令がきました。内容は知りません」 長門「禁則事項では?」 みくる「……話は以上です。また」スタスタ 長門「……」 ハルヒ「それでみくるちゃんはなんだって?」 長門「秘密」 ハルヒ「仕方ない、くすぐってでも吐かせてやるわ」 長門「無駄」 ハルヒ「どうよ!ほらほら!」 長門「まるで無駄」 ハルヒ「この不感症め!」 長門「なんとでも」 ハルヒ「あぁ、つまんなーい」 長門「そう」 ハルヒ「まぁ、いいわ。帰りましょ」 長門「?」 ハルヒ「~♪」 長門「あなたの家はこっちではない」 ハルヒ「あれ?言ってなかったけ?あたしの家今誰もいないから、有希の部屋泊まるって」 長門「初耳」 ハルヒ「そうだっけ?」 長門「そう」 ハルヒ「一泊も二泊も変わんないでしょ?さ、帰るわよ」 長門「……」コク ~長門宅にて~ ガチャ ハルヒ「ただいま~」 長門「……」 ハルヒ「……ただいま~」 長門「……」 ハルヒ「た・だ・い・ま」 長門「……ただいま」 ハルヒ「違う!あたしがただいまって言ったら、有希はおかえりでしょ?」 長門「……」 ハルヒ「もう一度よ。ただいま」 長門「おかえり」 ハルヒ「次は有希」 長門「ただいま」 ハルヒ「おかえり」 ハルヒ「あぁ~楽しかったぁ~、けど疲れたぁ~」 長門「六時間遊んだ」 ハルヒ「あれ?そんなもんだった?」 長門「充分」 ハルヒ「そうね、これ以上疲れたら明日筋肉痛になっちゃうわ」 長門「そう」 ハルヒ「有希は平気?」 長門「……」コク ハルヒ「文学少女のくせに丈夫ね」 長門「……そう」 ハルヒ「実はね」 長門「?」 ハルヒ「今日の団活中止になって嬉しかったの」 長門「何故?」 ハルヒ「一応表には出さないようにしてるけど、まだちょっとあいつと一緒に行動するのが、ね」 長門「……」 ハルヒ「そりゃ、盛大にふられてるもの、気にしてないっていったらウソじゃない?」 長門「そう」 ハルヒ「やっぱり気になっちゃう……ほんとに恋ってめんどくさい」 長門「……」 ハルヒ「未練がましいのなんてらしくないわね」 長門「……」コク ハルヒ「今の話忘れて!お終いお終い!さぁ明日も休みだし!今日こそ夜通し遊ぶわよ!」 長門「構わない」 ハルヒ「しっかり朝日を拝んでやるんだから!」 長門「そう」 ハルヒ「……」Zzzz 長門(まだ十二時) ハルヒ「……」Zzzz 長門「……」 ハルヒ「……ん……いや」グス 長門「?」 ハルヒ「……ゆ……き」グス 長門「……何?」 ハルヒ「おねが……いかな……いで」グス 長門「私ならここにいる」ギュ ハルヒ「……ん……」Zzzz 長門「……」ギュー --同じ『部活仲間』としての忠告です。涼宮さんとは距離を置いてください-- 長門(どこにも行かない。ここが私の場所) ~To Be Continued~